約 1,636,804 件
https://w.atwiki.jp/azounoman/pages/58.html
2440 DNA 問題 http //acm.pku.edu.cn/JudgeOnline/problem?id=2440 解答方針 長さn(n =3)の0,1の列で"010","111"を含まないもののうち,先頭の2文字が"00"のものをCn0,"01"のものをCn1,"10"のものをCn2,"11"のものをCn3とおいて,C(n+1)0,C(n+1)1,C(n+1)2,C(n+1)3をCn0,Cn1,Cn2,Cn3の式で表す.Xn = (Cn0, Cn1, Cn2, Cn3) とおくと,X(n+1) = A Xn (Aは4x4定数行列,具体的な形は省略) とかけるので,Xn = A^(n-3) X3とかける.行列の掛け算はO(log n)で実行できるので,全体がO(log n)で実行できる. 解答例 import java.util.*; public class Main { final static int I[][] = {{1,0,0,0},{0,1,0,0},{0,0,1,0},{0,0,0,1}}; final static int A[][] = {{1,1,0,0},{0,0,1,1},{1,0,0,0},{0,0,1,0}}; final static int F[] = {2,2,1,1}; final static int mod = 2005; public static void main(String[] args){ Scanner sc = new Scanner(System.in); while(sc.hasNext()){ int n = sc.nextInt(); int ans = answer(n); System.out.println(ans); } } public static int answer(int n){ if(n==1) return 2; else if(n==2) return 4; else{ int m[][] = exp(n-3); int x[] = new int[4]; for(int i=0;i 4;i++){ x[i] = 0; for(int j=0;j 4;j++){ x[i] += m[i][j]*F[j]; } x[i] %= mod; } return (x[0]+x[1]+x[2]+x[3]) % mod; } } public static int[][] exp(int n){ if(n==0) return I; else if(n==1) return A; else if(n%2==0){ int m[][] = exp(n/2); return mul(m,m); } else{ return mul(exp(n-1),A); } } public static int[][] mul(int a[][],int b[][]){ int m[][] = new int[4][4]; for(int i=0;i 4;i++){ for(int j=0;j 4;j++){ m[i][j] = 0; for(int k=0;k 4;k++){ m[i][j] += a[i][k]*b[k][j]; } m[i][j] %= mod; } } return m; } }
https://w.atwiki.jp/spaceempires/pages/26.html
設計画面 Space Empires V 最大の特徴の艦船及びユニットの設計についての解説です。 設計画面Ship系設計画面 Unit系設計画面 Ship系設計画面 Filter フィルターをかけて、既存の艦船リストを絞ります。(非常に設計図が多い場合に有用です) Create 新たに設計図を書きます。 Edit 既存の設計図を書き換えます。(上書き変更) Copy 既存の設計図をコピーします。 Upgrade 既存の設計図で、アップグレード可能なコンポーネントを自動的に全てアップグレードして、最新の設計図にします。 Make Obsolete 選択した設計図を「時代遅れの設計図として破棄」します。 Set Strategy 選択した設計図の艦船を生産した場合に自動的に適用される戦術行動を指定します。 Upgrade Queues 選択した設計図を新しくした場合、その設計図の古いバージョンを使って現在生産艦船を自動的に新バージョンへ変更します。 Space Simulator 過去、偵察や戦闘によって得られた敵艦船、ユニット情報を元に宇宙空間で仮想戦闘を実施します。 Ground Simulator 過去、偵察や戦闘によって得られた敵艦船、ユニット情報を元に惑星の地表で仮想戦闘を実施します。 Unit系設計画面
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/249.html
simulacre, simulachre はラテン語の simulacrum に由来し、12世紀から16世紀には「異教の神の像(image)」の意味であった(*1)。 この場合の像は、絵、彫像など、何らかの形態でかたどったものである (*2)。 マリニー・ローズによれば、16世紀になると「現実の姿を見かけ上真似たもの」の意味でも使われ始めたようである。 現代の仏和辞典では「模造品」「見せかけ」などの語義しか載せていないものもあるが、辞書によっては「像」「偶像」等の意味を残しているものもある。 登場箇所 第3巻26番(未作成) 第8巻28番 第8巻80番(未作成) 第9巻12番 ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/60.html
女主人 【 キャラクター名 】:女主人 【キャラクター名読み】:おんなあるじ 特殊能力『胡蝶草、勿忘草と二輪草』 自分、あるいは触れている相手の記憶から何かひとつの事柄を忘れさせる能力。 忘れた記憶は女主人が能力発動時に取った行動をもう一度再現した際に復元される。 例1. 女主人がSさんの頬にキスをした際に能力発動。Sさんが今日の昼食の内容を忘れる。 ⇒女主人が再びSさんの頬にキスをした際に、Sさんは昼食の内容を思い出す。 例2. 女主人がRさんと握手をした際に能力発動。Rさんが今日の朝食の内容を忘れる。 ⇒女主人が再びRさんと握手をした際に、Rさんは朝食の内容を思い出す。 例3. 女主人が窓際右端席の花壇に水やりをしながら能力発動。自分が友人にお遣いを頼んだ事を忘れる。 ⇒女主人が再び窓際右端席の花壇に水やりをした際に、自分が友人にお遣いを頼んだ事を思い出す。 一度に複数の人間へ能力を行使可能だが、同じ人間に対して複数の記憶を忘れさせる事は不可能。 記憶を失った人間は自分が何かを忘れた事を認識せず、記憶の欠落部分は適当に脳内補完される。 何をもって「これがひとつの事柄だ」「能力発動時の一行動だ」とするかは女主人の主観による。 キャラクター設定 創作料理店を独り身で営む、花をこよなく愛する料理上手の女店主。 店舗を兼任する住居には表札も掲げていないため、店主さんとばかり呼ばれている本名不詳の人物。 普段は慎ましやかに振る舞い、若々しい容姿から大人の色香を漂わせる美人店主として好評である。 ただし、花の事となると慮外の熱心さを見せ、時には子供のように向こう見ずな行動力を発揮する。 単純所持が違法となる花を惚れ込んだという理由から密かに入手し、誰にも言わず独りで愛でているなどという彼女の秘密を聞けば、およそその花狂いの度合いも分かろうというものか。 争い事が苦手な性格のため、無色の夢を見てからは酷く不安な一日を過ごして夜を迎えた。 夢の戦いの褒賞に望む瑞夢は「大好きな花と好きなだけお喋りできる世界」という子供染みた願い。 関連SS 女主人 プロローグ ※以下のSSは第5試合の第一稿を掲載したものです。何故ならそれは、社会――『地獄』を耳触り良く表した場所――の隷属者なのだから
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/67.html
矢塚 白夜 【 キャラクター名 】:矢塚 白夜 【キャラクター名読み】:やづか はくや キャラクター設定 Don't play with FIRE ■▼■▼■▼■▼■ 矢塚 白夜(やづか はくや) 生年月日:1988年6月21日 年齢:28歳 血液型:O 身長:167cm 体重:概ね57kg 炎を操る能力を持った魔人であり 常に黒いガスマスクを被ったパイロマニアの男 滅多に晒さないガスマスクの下の素顔は 銀髪の美形というキャラ造詣として割とありがちな容姿をしている 性格は普段は割と落ち着きがあり、まあまあ穏やかな性格と言えるが 重度のパイロマニアであり、炎を見たり物を燃やすと興奮し、はっちゃけた言動が多めになる、 しかも炎を見てない状態が長時間続くと今度は禁断症状めいてどうにかして 炎を見たいという欲求が大きくなり、何かにとりあえず着火したいという 精神状態を隠さないようになってくる、難儀な性格だな。 ちなみに普段は消防士として働いている。 あと凄いシスコンである。 あーそうだ、白夜には頼れる兄とそれなりに可愛い妹が居る。 そしてその妹の名は愛頽 千夜(めで ちよ)、こいつが数日前に ずっと眠ったまま起きなくなった、それで色々と調べるうちに 無色の夢ってのが関係してるんじゃないかって事になって 更に無色の夢の勝利者への報酬をうまい事アレコレすれば 千夜を起こす事ができるんじゃないのかって話になったのが 白夜が無色の夢の戦いに参加するきっかけな訳だな。 これについては後でプロローグとやらで詳しく描写するつもりだ 忘れてたらゴメンな。 そうだ、愛頽千夜についてざっくりと紹介しておくか まあまずはプロフィールでも貼るか 生年月日:1996年10月01日 年齢:20歳 血液型:O 身長:178cm 体重:60kg代 愛頽千夜、さっきも述べたが読みは(めで ちよ)で矢塚白夜の妹だ 苗字が違うのは既婚者だからだな、ダンナは開業医をやってて子供が5人いるけど あんまり人物が増えるとややこしいだろうからコイツらの説明は省くぞ 「他人に親切に振る舞い続け自分の印象を良くしいつかお返ししてくれるのを期待する」 そんな甘っちょろい事をいつも言って親切と笑顔を振り撒いている 外面的には如何にも優しく能天気で楽観主義な感じの小娘だ。 しかしながら肝心なところでは結構しっかり者だったり お金が大好きな一面もありしたたかで油断ならない 座右の銘は「タダより安いものは無いがタダより高いものもない」だとか 普段は主婦兼イマイチ売れてない絵本&小説作家をやってる。 こいつも魔人であり能力は 「相手に小噺や物語、世間話等の何らかの『話』をする際に能力を発動させると 相手を話の夢中にさせ、話をずっと聞いていたくなり話を阻害するような行動を取れなくなる」 って感じだ、一時的な魅了洗脳型限定的行動意思阻害能力って感じかな この能力と持ち前のしたたかさで今までも色んな窮地を脱したりしてきたんだ。 あとまあこの能力について、話を聞かないようにすれば精神力の強い人間であれば抵抗できたり 話が聞こえる範囲の複数対象に一応効果はあるが、100%の効果を発揮できるのはあくまでそのうちの単体のみとか 色々な細かい事とかあるけどは別に記さなくて良いか、どうせコイツは囚われの姫ポジションで戦う訳じゃないしな。 まあ、こんなもんだな よし!それじゃ最後に取っておきの奴を紹介しよう! そう、頼れる兄貴こと、俺の事だ!! 俺の名は矢塚 一夜(やづか いちや) 1986年11月18日生まれ、戸籍上は30歳って事になるな まあ色々あって外見上は20歳くらいのままなんだけど。 血液型はO型、まあ両親がO型だから当然だが 身長は176cm 体重はだいたい70kgくらいだ 先ほども述べたように矢塚白夜と愛頽千夜の頼れる兄であり 嘗ておぞましい殺人鬼に果敢に立ち向かい、関西を滅ぼした悪夢に戦いを挑もうとし はたまた過去の世界で魔人に抗う勇敢な人々と共に戦い その他あらゆる死線を乗り越えし時空の放浪者!それが俺だ!! そして今の状況について説明するとしよう まあその為にはまずは俺の能力についての説明が必要だな。 俺の魔人能力は「♪TIME」という時間と空間を操作する能力なんだが そのまま使うと常人であれば即廃人になるレベルの精神力を代償として要求してきやがる だから俺はこの能力を調整して限定的な魔人能力へと一度変換してから使用してる。 そして無色の夢の噂を聞きつけた俺はこの能力を使えば 勝利者への褒美を現世へと持ち帰る事が出来るのでは?と思って (あ、もちろん千夜も助けるつもりだよ?) 能力を別次元へと入り込む能力へと調整して更に無色の夢を 確実に見る手段を手に入れ、無色の夢へと乗り込んだ訳だ。 しかし、普通の手段で無色の夢に入らなかったのが悪かったのか 俺は戦いをマッチングされず、夢と夢の狭間を彷徨う事になった しかしながら俺は他の戦いを眺めながらも自分の能力を調整し この夢の狭間に俺の為の空間を作り出し、更にその空間を少しずつ増築させる能力 「夢の掌握」を作りだした。 そして今、俺はこの空間から様々な無色の夢の戦場への干渉を試みていたが そうするうちにこの戦いに関するある事実を知った。 つまりこの戦いがあんた達に「見られている」って事だ。 そしてその戦いは文章で描写され、その描写の評価が高いほうがなんらかの 優位性を手に入れることが出来る、どうだ?当ってるだろ? そして俺は恐らく白夜が千夜を助ける為に無色の夢の戦いに参加するであろう事を見越して この空間から戦いを覗き見できる俺が圧倒的描写力でヤツの戦いを盛り上げ有利に導いてやろうと考え その文章へと干渉できる特殊なパソコン…というかワープロの様な物を この空間に増築し、今正に白夜のプロフィールを書き込んでいるという訳だ。 ただし干渉できると言っても、その文章を本来描写している存在は 俺よりも更に上位の権限をもっているらしく、そいつの気に食わない部分は消されちまうみたいだな もっともそいつと俺の利害も一致してるようで、俺の描写がそいつの意にそぐう物なら基本的に そのままにしておいて貰えるようだ ■▲■▲■▲■▲■ 先に述べたように 一夜の行う描写は各SSの書き手よりも下位の権限の能力である為 対戦相手等の他プレイヤーは一夜の描写を全く入れずにSSを書いても 設定的になんら問題はない。 また一夜はプレイヤー毎に別の戦いのSSを書いてる事を知らず 一つの戦いを複数の人間が別々の視点でSSを書いていると愚かにも勘違いしてる為 他のプレイヤーは一夜に自分のSSを盛り上げる描写をさせても良いだろう ■▼■▼■▼■▼■ ふうむ、早速なんか修正的干渉を行われた気がするな それもなんか心なしかバカにされたような気もする… まあ、とにかく俺はこの能力によって作り出した空間からこうやって 戦いの描写に干渉して白夜の為に盛り上げてやろうとしてるって訳だ あと一応更なる干渉の方法も模索してて…いや、まあこれは今は良いか。 あと何や書くことあったかな? ああ、そうだ俺は前と同じくククリと拳銃を持って来てる いやまあ、別に俺が戦う訳じゃないから特に意味のない情報だがな。 まあそんな訳で白夜のヤツをガンガン盛り上げて行くからヨロシクな! ■▲■▲■▲■▲■ 特殊能力 『因辺留濃』 ■▼■▼■▼■▼■ 炎を操る能力、これ以上の説明は不要なんじゃないかってくらい分かり易い能力だ 一応詳しく説明すると炎に対して能力を使用する事によって体力の消耗を代償に次の様な効果を発揮する。 まず、炎を活性化、増大させる、まず最初に火力を上げるのは基本だな。 そして炎を任意の方向に移動させる、さながら炎のラジコンカーだ、 普通に移動させる事もできれば、延焼させるように元の場所に炎を残しながら移動させる事もできるぞ。 更に変形させる、粘土遊びみたいなもんだ、まあこれも炎を部分的に移動させてると言えなくもない。 でもって次は本来炎が存在できない状況であっても炎を持続させる、 具体的には水の中や酸素がない空間で炎を燃やし続けるだとか不燃物に着火したりする事ができる。 最後に炎が本来発する熱を下げる、メラメラと燃えながらも熱くない炎にするって感じだな 但し外気よりも冷たい炎を作ったりは出来ない、それはヤツの炎のイメージに反するらしいぞ。 でもって射程と体力の消耗について説明しよう この能力は離れた場所であればある程体力の消耗が激しくなる、しかしながら その消耗度合いと距離は正比例してなくて、ある程度の距離毎に消耗する体力ががくんと上がる。 その距離は至近距離、近距離、中距離の三段階に分けられる まず至近距離だが直接触れるくらいの近さでこれなら せいぜい平坦な道を歩き続ける程度の体力の消耗で済む そして近距離、だいたい3mくらいまでで 小走りするくらいの疲労感があるらしい で、中距離の限界は10mくらい 全力で走るくらい体力を消耗する、そしてこれが実質この能力の最大射程みたいなもんだ 一応これよりも離れた場所の炎に能力を使う事も出来なくはないらしいが 一瞬で疲れて能力が続かないから意味がないらしいな 以上で因辺留濃の説明は終わりだ、まあそんなに難しい能力じゃないだろ? ■▲■▲■▲■▲■ 関連SS 矢塚 白夜 プロローグ(5,695文字)(※ドリームマッチ本編へのリンクです) 矢塚白夜簡略キャラ説(1,529文字)(※ドリームマッチ本編へのリンクです)
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/70.html
はかいしん プロローグ『遊園地に行こう!その1』 おひさまがピカピカと光る、とびっきり元気な日曜日。 はかいしんはゆうしゃと待ち合わせるために、最寄りの駅前にきていました。 はかいしんは腕時計をみて、時間を確認します。時刻は9時45分。待ち合わせの15分前です。 待ち合わせの際、はかいしんは何時も15分前には現場に到着するようにしています。 相手がゆうしゃとはいえ、女性を待たせるのははかいしんのポリシーに反するのです。 「うむ、いつも通り。あとはゆうしゃが来るのを待つだけだな。」 はかいしんはそう呟いて、駅の構内をぐるぐる回り始めました。 はかいしんの力は絶大です。一つのところに留まると、それだけで周りの物が破壊されてしまいます。 無駄な殺生を嫌うはかいしんは、歩きまわることで駅の崩壊を防いでいるのでした。 駅を回る最中、はかいしんを見て、様々な人が話しかけてきます。ここははかいしん様の地元、当然その名も知れているというわけです。 真面目なはかいしん様は、その一つ一つに律儀に返事をしながら人々の間を歩いていきます。 「おっ!はかいしんさま!チーッスチーッス!」「おや、はかいしんくん、今日もお出かけかぇ?げんきでいいわねぇ。気をつけてらっしゃいねぇ。」 「あ!はかいしんさま!この前は瓦礫の破壊助かりました!今度また何かお礼させてください!」「バボンバ!バボンベンベン!ブンブー!」 「チーッスチーッス!……じゃない。なんだその態度は。私ははかいしんだぞ。もっと敬え、もっと。」 「ふん。まあな。そちも元気そうで何よりだ。季節の変わり目だからな、体調にはしっかり気を使えよ。」 「別にお前のためにやったわけではない。お前の店で買い物ができないと不便だからやっただけだ。勘違いするなよ定命の者よ。」 「ボンババ?ボッベンボッベン。バボブーバベンバー。」 一通りの人に挨拶をし、はかいしんさまはてくてくと歩き続けます。はかいしん様の表情は複雑でした。 「……破壊の化身であり、いずれ世界を滅ぼすであろうこの私が、この慕われよう……しかも全く畏怖を抱かれていないとは、はぁ……。 何と情けない……!それもこれも全てあのゆうしゃが原因……おのれゆうしゃ……!」 そう、破壊の化身であるはかいしんが町の人々に好かれているのは、ゆうしゃのせいなのです。 今までの勇者は、そのすべてが例外なくはかいしんを殺害しています。平和のための尊い犠牲です。 ですが、ゆうしゃはそれを善しとしませんでした。 「はかいしんが転生するなら、殺すより改心してもらったほうがずっと平和でええやん。」 そう言って彼女は城に引きこもっていたはかいしんをしばきたおし、はかいしんを町の人々と交流させるようになったのでした。 最初の頃は怖がっていた町の人々も、今ではすっかりこんな調子。はかいしんはゆうしゃにしてやられているようで、とても悔しいのでした。 今日のお出かけも、ゆうしゃがはかいしんの城に押しかけてとりつけたものでした。そう、それは一週間前のこと…… ◆◆◆ 一週間前。富山県と北海道の境目、四方を暗黒領域で囲まれ、入るには門番である溶岩魔神と氷の女王、その奥にいる四天王、更にその四天王を束ねる魔王を倒さねばならないはかいしんの城に、ゆうしゃは訪れていました。 全ての門番をタイムアタックよろしく平均5秒で倒した勇者は、クソデカイ扉を開けて、はかいしんの間に入っていきます。じっとしているだけで近くの物が破壊されるので、はかいしんの間はめちゃくちゃ大きく、殆ど物がありません。 その中央、玉座に座っていたはかいしんは、勇者を認めると、立ち上がってこう言いました。 「……来たか、ゆうしゃよ。だが私はもう二度と外には出んぞ。貴様に誘われてやった草野球は散々だった……。独りでにねじ曲がるバット!当てても破裂して飛んでいかないボール!滑りこんだホームベースは叩き割れ、挙げ句の果てに私のエラーでチームは負けた……!皆私を嫌ったに違いない……もう沢山だ!絶対に街には出んからな!」 「なんや、そんなこと気にしてたん?誰もはかいしんのこと嫌いになったりしてへんて~!物ぶち壊すのも面白がってたし、エラーで負けるなんてよ~あることや!むしろ初めてまともに野球できとったの凄い言うてたで?気にしすぎや!元気出しや!」 「ええい黙れ!貴様の言うことなど信用できるか!どうせ私を慰めようと適当なことを言っているに違いない……私は騙されんからな!」 ゆうしゃは悲しむはかいしんを元気づけようと言葉を紡ぎますが、はかいしんはそれに聞く耳を持ちません。 「はぁ~全く面倒やっちゃな~。ま、ええわ。今日は草野球の話しに来たんやないからな。ほら、これ何かわかるか?」 そう言って、ゆうしゃはふところから1枚の紙切れを取り出しました。その表面には、「ほにゃらら遊園地ラブラブペア招待券」と印刷されています。 はかいしんが目を細めながら言いました。 「文字は読めるが……見間違えのような気がするな~……なんかラブラブとか書いてあるように見えるが気のせいかな~!」 「テレレテッテレー!大正解!これ、商店街の福引でちょうどあたってなあ。今日はこれに二人で行かへんかって誘いに来たんや!な?ええやろええやろ?二人でいこ~や!」 「よ~し、行っちゃうか~!遊園地楽しみ~!……とでも言うと思ったか!このバカゆうしゃ!」 ウキウキした様子ではなす勇者に、はかいしんは怒った様子で続けます。 「仮にもお前と私はゆうしゃとはかいしん!世界の命運をかけて戦い合う定め……それがラブラブペアだと!?もはやはかいしん概念に対する冒涜だぞ!冒涜!」 「っか~!定めとか古!そんなん気にしてるの石器時代の人間くらいやで!頭カチコチやな~。あ、でもはかいしんくんはそれくらいから居るんやっけ?古い考え持っとるのもしゃーないか。」 「転生してからはまだ20年ほどだ!古さは関係ない、貴様が軟弱すぎるのだゆうしゃよ!大体今までの仲良しこよし、友情ごっこをしていたのもおかしな話……。決めたぞ!今日という今日は貴様を打倒し、世界を破壊してくれるわ!」 ブワーッ!はかいしんの声とともに、破壊のエネルギーが空間を走り抜けます。ゆうしゃは腰に下げてあった剣を抜き、それを受け止めました。 この剣こそはゆうしゃのつるぎ。 絶対に壊れないすごい剣であり、ゆうしゃ一家に伝わる遺伝型特殊能力、はかいしんのちからを受け止めることが出来る唯一の力です。 マジで絶対に壊れず、一節によると宇宙の崩壊にも耐えると言われているヤバイ剣なのです。 しかし、それ以外は別。受け止めきれなかったエネルギーによって、服の端々がはかいされ、黒い塵となって宙に舞いました。ゆうしゃは言いました。 「おーおー随分恥ずかしがるなあ。相変わらずかわいいやっちゃで。よーし、相手したる!ただし私が勝ったら遊園地付き合ってもらうで。ええな!」 「望むところだ、今日こそ貴様をはかいしてやる!ハーッ!」 バシュンバシュン。はかいしんの構えた両手から、破壊の力が飛び出していきます。 不可視のその力を、ゆうしゃははかいされる空気の揺らぎによって感知、軌道を見極め、一息で間合いを詰め、剣を振るいます。 「フン、甘いわ!」 ガキーン。はかいしんは手についた鋭利な爪を伸ばし、それを受け止めます。 本当は剣を持つと見栄えがいいのですが、はかいしんは自分の武器も壊してしまうので、それはできません。力には何時も対価が必要なのです。 「フッ!ハ!ヌアーッ!」 両手の爪で剣を捌きつつ、はかいしんはタックルやローキックなどの体術も交えて攻め立てます。 剣で受け止められると不味いですが、一撃でも当たればゆうしゃを破壊することができます。チャレンジャーらしい攻めの姿勢。実に好感が持てますね。 対する勇者は剣撃とフェイントではかいしんの体制をコントロールし、攻撃を掠らせもしません。ついでに一言も喋りません。真剣にやっているのです。鎧袖一触とはこのことですね。 「ふん……チェアァッ!」 状況を変えるため、はかいしんが一際力を込めてゆうしゃに斬りかかります。ゆうしゃがそれを受け止め、一瞬の硬直状態が生まれました。 「フンナーッ!」 それと同時に、はかいしんがぐっと力を込めました。 すると、ゆうしゃの立っていた床が一瞬で破壊され、その下の地面が顕になりました。 高低差により、そこに立っていたゆうしゃの体制が崩れます。はかいしんはそれを見逃さず、剣を弾くと同時にゆうしゃに向かって爪を振るいました。 ゆうしゃ、危うし!かと思われましたが、ゆうしゃは慌てず騒がず、弾かれた勢いを生かして、後ろに吹き飛びながらそれを避けようとしました。 回避しきれず、足が少しばかり破壊され、宙に血の赤と破壊の黒が広がりました。 「今が勝機!ゆうしゃ、今度こそ死……」 「いよいしょー!」 追撃を試みるはかいしんに向かって、ゆうしゃは着地の寸前、ゆうしゃのけんの鞘を投げつけました。 空中にもかかわらず、その鞘はとても正確に、はかいしんの頭に無かって飛んでいきます。 ゆうしゃのけんは絶対に壊れないすごい剣です。その鞘も壊れないので、はかいしんはちからを使わず、爪でそれを弾かなければなりませんでした。 「フン、小賢しいな勇者!……む?」 ……そう、弾かなければならないはずでしたが、弾こうとした鞘ははかいしんの目の前で破壊され、黒い塵になり、宙に舞いました。 どうやらゆうしゃは、ゆうしゃのけんを普通の鞘に挿してここまで来たようです。破壊された鞘の残骸で、はかいしんの視界が遮られます。 はかいしんがなるほどなあ、と感心した直後。弾丸くらいの速度で飛んできた本物のゆうしゃのさやが、はかいしんの頭に直撃しました。 灰の向こうから、ゆうしゃのドヤ顔がはかいしんの目に映りました。 さすがのはかいしんも、これにはたまりません。はかいしんは関心した表情のまま後ろに倒れました。 「じゃ、来週の日曜日、ほにゃらら駅前で待ち合わせな。遅刻したら怒るで~。」 意識を失う前、ゆうしゃのごきげんな声が聞こえてきた気がしました。 ◆◆◆ ◆◆◆ というような事があり、はかいしんはしぶしぶながらもゆうしゃと遊園地に行くことになったのでした。 「くっ……!忌々しいゆうしゃめ……!今更悔しさがぶり返してきたぞ……!大体遊園地など!はかいしんに全くふさわしくない……。楽しみにしてきたお子様たちが怖がったらどうするつもりだ……!ほんとうに自分勝手な奴だ、ゆうしゃよ……」 呟きながら、はかいしんは腕時計を見ました。既に破壊され、秒針がすっかり止まっていたので、はかいしんは仕方なく広場まで時間を確認しに戻りました。 「む……。何だ、既に集合時間を過ぎているではないか。奴が待ち合わせに遅れるとは、珍しいな。まさかこの前の足の怪我が響いて……?」 心なしかおろおろしながらつぶやくはかいしん。 そんの時、かばんに閉まっていた携帯がピポピポーっとなりました。画面にはまおうの文字が表示されています。はかいしんは通話ボタンを押し、電話に出ました。 「もしもし。余ははかいしんである。どうしたまおうよ。お昼ならいらないといったはずだぞ。」 『もしもしまおうです!お昼の事は覚えてますよ!バカにしないでください!そんなことより大変なのです!お城にゆうしゃとその弟が来ているんですよ!』 「え?なんでゆうしゃがそっちに。集合は駅前って言ってたじゃん。余の聞き間違い?それとも勇者の言い間違い?」 『それがゆうしゃの奴も様子がおかしくて……。なんだかずっと寝てる?みたいな……。弟さんから詳しく聞けばいいんでしょうけど……ごめんなさい!知らない人と話すの怖いです!無理です!早く来てくださいはかいしん様!』 「様子がおかしい?全くしかたのないやつだ……。なるほどちょっと待ってろ。すぐ行くから。話すのが怖いからって殴っちゃダメだぞ。話が聞けなくなるからな。判ったな。」 『はい!できるだけ努力します!なのではやくきてくださいはかい……』 ブツッ。通話が終わる前に、携帯ははかいしんの力に耐え切れず、プシューッと煙を立てて壊れてしまいました。 1万円くらいがパーです。この体質のせいで、はかいしんはスマホをもつこともできません。 はかいしんはこわれた携帯をかばんにしまいながら呟きました。 「全く、ゆうしゃめ。本当にしかたのないやつだ。よりにもよって私とお出かけの日におかしな目に合うとは……。」 はかいしんは携帯の代わりに、かばんの中から大きな冊子を取り出しました。それは、大量に書き込みのされた、ボロボロのほにゃらら遊園地パンフレットでした。 「フン。まあいい。来ようと思えば何時でも来れるのだからな。しかし、ずっと眠っているとは一体……。面倒事にならねばいいが。」 はかいしんはパンフレットを再びしまい、はかいしんの城へ戻ることにしました。 残念、貴方はこれからその面倒事に巻き込まれるのです。具体的に言えば夢の戦いに。 そんなことも知らず、はかいしんはてくてくとはかいしんの城へ戻って行きました。 はかいしんがどうやって夢の戦いに参戦したのか、どうやって無色の夢を見たのか。 語らねばならぬことは山々ありますが、今日はこの辺りで締めとさせていただきましょう。 終わり。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/121.html
第10試合SSその2 遊園地に行こう!その2~このSSは二万字以上あるのでこちらに5P相手に0Pを入れてくれると大変助かります~ 『遊園地に行こう!その2』 1. 強さとは一体何なのだろう。 曲がりなりにも格闘技……と言っていいのかわかりませんが、 とにかく戦うすべを学んでいるかのこちゃんは、時折そんなことを考えます。 他の誰かは言っていました。敵を倒せるのが強さだと。誰かを守れるのが強さだと。 そしてかのこちゃんは、こんな人達を知っています。 ある人は、自分の住んでいる街に巣食おうとした暴力団を、 『なんだか怖いから』という理由で単身乗り込んで壊滅させたといいます。 ある人は、火よりも熱い体を生かして、遥か昔からある土地を人の手から守っていたといいます。 どれも実例があって、とても納得の行く意見だと、かのこちゃんは感じていました。 しかし、この現代で、その強さは……個人の強さは、何処まで意味のあるものなのだろうか? かのこちゃんは、そうも感じていました。 その人はその後、より上の組の怒りを買い、それはもうひどい目にあったのだといいます。 その人はその後、土地にあった資源を目的にした大きな国に襲われ、別の場所に追いやられたのだといいます。 今の世界、どれだけ強くなろうと組織の力の前にしたら、それは誤差でしか無いように思えました。 しかし、かのこちゃんはその世界の中でただ一つ、例外を知っていました。 この世のあらゆる物、あらゆる力、個、群、それら全ての力を凌駕し、破壊する者。 恐らく、この世において最強の存在。 名を、はかいしんといいます。 かのこちゃんの、目の前にいる男の事でした。 『我が名ははかいしん。 全知全能の神が生み出した唯一の例外であり、松羽田家にテレビ電話をかけるものである』 画面越しに声をかけてくる痩せぎすの不健康そうな見た目の男、これがはかいしんさまです。 松羽田家は道場経営の傍ら仕立て屋を営んでおり、 ひょんなことからはかいしんさまの服を作るように成ったのです。 初里流は服を脱ぐことで強くなる流派、 服を破かれては技を使うことができません。 それ故に破けづらい、壊れづらい服を作る技術も、自然と発達しました。 それが何でも……着ている服も壊してしまうはかいしん様の目に止まり、 時たまこうして服を仕立てて欲しいという電話がかかってくるようになったのです。 「お電話ありがとうございます、はかいしんさま。 すみません、お父さんなら今席を外していてですね。 もう少し待っていただければもどってくるとおもうんですが。」 こういうことは何度かありました。かのこちゃんはいつも通りに対応します。 しかし、はかいしんさまはどうやら、いつも通りの用事ではなかったようです。 『いや、今日は服の仕立てではなく、かのこちゃんに用事があってだな……。 かのこちゃんは、無色の夢というのを知っているかな。』 テレビ電話を壊さないよう、代わりに手に持ったダンベルを粉々にしながら、はかいしんさまが答えました。 無色の夢。なんだか聞いたことがあるような無いような話です。かのこちゃんは素直にそう伝えました。 『ふむ、そうか。実はかくかくしかじかうんぬんかんぬんで、私とかのこちゃんが夢のなかで戦うことになったのだ。』 はかいしんさまは使わない本を細切れに破壊しながら、かのこちゃんに夢の戦いについて教えてくれました。 かのこちゃんとしてはびっくり仰天、天地もひっくり返るような衝撃です。 はかいしんさまを相手に勝たないと、 いつ覚めるかもわからない悪夢にとらわれるなんて。とんでもない話だと思いました。 『む、いや、安心してくれ。かのこちゃんが眠ったとして、悪夢を観るのは一瞬だ。 何せ私が、無色の夢全てを破壊するからな。』 はかいしんさまいわく、無色の夢を破壊するためには、一度夢の世界に入り勝利しなくてはならないのだそう。 相手が見ず知らずの人間ならとりあえず破壊するつもりだったらしいのですが、 相手がかのこちゃんだったので、挨拶位はしておこう。ということで電話をかけてきたのです。 『そういうことで、できることなら降参して欲しいのだが……。一応戦うか、かのこちゃんよ。』 「いや、戦いませんよ。戦っても勝てないとおもいますし、そもそも戦いたくないですし。ゆずりますゆずります。」 手と首を振りながら、かのこちゃんは拒絶の意を表明します。 画面の中では、はかいしんさまが持っていたカップが真っ二つに割れたところでした。 「そうか、そうしてもらえると、助かる。私も知り合いを破壊したくはない。」 では夜に。そう言ってテレビ電話を切ろうとするはかいしん様。 その前にかのこちゃんは一つだけ、気になっていることを聞くことにしました。 「あの。はかいしんさまはなんで急に無色の夢を破壊しようと思ったんですか。 もしかして、またゆうしゃさんになにか言われたんですか。」 かのこちゃんが尋ねると、ビシリと、はかいしん様の部屋に、ひびが入るのが見えました。 はかいしんさまが言います。 「な、何故急に奴の名が出てくるのだ!たしかに奴は眠っているが……奴のためではない! これから巻き込まれる奴らの心配をしてだな……。とにかく夜!よろしく頼むぞ!かのこちゃん!」 がちゃり。電話が切れました。どうやらはかいしんさまはゆうしゃさんを助けるためにがんばっているようです。 悪夢を観るのは嫌だけど、これは止められそうにありません。こまったなあ。 「何だ、戦わないのかかのこ。いい練習になると思うけどなあ、おとうさん。」 困っていると、いつの間にか帰ってきていた父が、かのこちゃんに話しかけてきました。 どうやら、話を聞かれていたようです。 「いや、戦わないから。練習もしない。私は家を継ぐつもりなんて無いからな……って言うか帰って早々服を脱ぐんじゃない!」 「まあまあそう言わず。お前が継げば初里流も今までにない発展を……あいたたた!痛い痛い!わかった!わかったから顔はやめてくれ顔は!」 わかればよろしい。そう、かのこちゃんは戦いたくなんて無いのです。家を継ぐこともしません。地の文が言うのだから、間違いありません。 「うーん、はかいしんさまかあ。かのこならいい線いくと思うんだけどなあ……」 「わかってねーじゃねーか!」 「うぎゃー!」 そう、かのこちゃんにとって、家を継ぐことに比べれば、少し悪夢を見るほうが、よっぽどマシなのでした。 ◆◆◆ 2. 「話はつけてきたぞ。仲良くしていたか、お前ら。」 電話を終え、広間に戻ってきたはかいしんを待っていたのは、 ベッドで眠りこけるゆうしゃと、その横で療養するおとうと、二人を守るまおうです。 「勿論仲良しです!はかいしん様の命令ですから!」 まおうははかいしんの言葉を受け、元気よくおとうとと肩を組みました。おとうとは傷に触ったのか、酷い顔をしています。 まおうは人見知りで、初対面の人を殴り殺そうとする悪癖がありますが、人と仲良くなるのは得意なのです。 「はかいしん、護衛を変えてもらうことはできないのか?こいつが側にいると怪我が治りそうにない。 それどころかこのままだと死んでしまう。護衛の意味をもう一度考えなおしてもらいたい。」 身の程知らずのおとうとがはかいしん様に文句をいいます。 寛大な心を持つはかいしん様は、特にその言葉を咎めることなく話を進めます。 「この様子だと問題はないな。私が眠っている間も二人を頼むぞ、まおうよ。」 「任せて下さい!はかいしん様!」 「おい、まて。任せるな。おい、はかいしん。 ゆうしゃを連れてきたのは私だぞ、その感謝はないのか。はかいしん。」 そう、事の始まりは、ゆうしゃが夢の闘いに負け、悪夢に囚われたことでした。 それだけなら眠っているだけで、そのうち目覚めます。 さほど問題は無かったのですが、ゆうしゃが眠りこけていると知れるやいなや、 他の勇者候補達がこぞってゆうしゃを殺害しに来たのです。 ゆうしゃははかいしんを殺せるすべを持ちながら、ずっとそうすることを拒んできました。 他の勇者から嫌われていたのですね。 ゆうしゃを殺されては困るおとうとは、それを許しはしませんでした。 眠ってる勇者を守るために、勇者候補たちをちぎっては投げ、八面六臂の活躍です。 しかし、おとうとも無敵ではありません。 限界を感じたおとうとは、やむを得ずはかいしんの城に逃げ込みました。 そこで人見知りのまおうにぼこぼこにされつつも、なんとか事情をはなすことに成功したのです。 幸い、はかいしんさまはすごいので、夢の戦いのことも、無色の夢を見る方法もすぐに分かりました。 そんなこんなで夢を見たり挨拶をして、今に至るということです。 「おいこら、なんとか言ったらどうだはかいしん。」 からだをジタバタさせながら抗議するおとうとの言葉を、はかいしんさまは鼻で笑い、こう答えました。 「フン。ゆうしゃが何だというのだ。私は別にゆうしゃのために夢を破壊するのではない! ただ商店街の皆さんが同じような目に会うかと思うと、放っておけないだけだ。 ゆうしゃはそのついでだ、ついで。勘違いしてもらっては困る!」 「何だと言いながら守ってはくれるんだな。仇敵なのに。」 疑いの目で見ながら、おとうとが言います。 はかいしん様はまったく動じず、、こう言い返しました。 「馬鹿なことを。今までのはかいしんは全員、ゆうしゃと真向からぶつかり、敗れたのだ。 私が逃げては、はかいしんの名折れ。 別にゆうしゃが心配だとかそういうことではないからな。勘違いするな。」 そう、はかいしん様の言う通り、別にはかいしん様はゆうしゃのために戦うのではないのです。 地の文が言うのだから間違いありませんよね。 「では、私は戦いの準備をしてくる。席を外すぞ。お前もいい加減に諦めるのだぞ、おとうとよ。」 「貴様におとうとと言われたくはない。 いや、まて。話はついたと言っていなかったか?相手は降参してくれるんじゃないのか、はかいしんよ。」 「万が一ということもある。例え戦っても負けるとは思わんが、戦う段になって慌てたくはないからな。」 そう言って、はかいしん様は部屋から出ようとしました。 「ん……んぐ……んぐご!?」 しかしその時。ゆうしゃがいびきとも何ともつかない、変な声を出したのです。 「あ、穴子……?い、いや!ちゃう!これはうなぎ!う、うなぎ……た、たれ!?す、酢飯まで……!うわーっ!」 悪夢を見始めてから、ゆうしゃは時折こんな寝言を言うようになったのです。 「うーむ……しかし、どんな夢を見ているんだ、コイツは……。」 呆れたようなつぶやきを残し、はかいしんさまは、今度こそ部屋を後にしました。 ◆◆◆ 3. その日の夜。かのこちゃんは自室で電話を使い、 友達の南出雲知子(なんでもしるこ)ちゃんと今日の出来事について話していました。 「……ってことでね、私は降参するって言ってるのにね。 お父さんが『いいじゃないか!修行になるじゃないか!』 って言ってくるんだよ。どうおもう?知子ちゃん。」 『ふへーん。どう思うって、ねえ。相変わらずだよね、お父さん。 それだけかのこちゃんの才能を買ってるってことじゃない?』 「うわ、どうでもよさそうな相槌。才能を買ってるって言ってもなあ。 あれはダメでしょ。服を脱ぐほど強くなる武術を、女の子にって……しかも娘に。どう考えてもダメでしょ。」 編みこみを解いた髪をくるくると回しながら、かのこちゃんは不満を口にします。 電話の向こうから、知子ちゃんのけらけらという笑い笑い声が聞こえてきました。 「ちょっと、笑わないでよ知子ちゃん。いや、話が話しだから仕方ないけどさ。」 『ごめんごめん。確かに、私もどうかとおもうよ。けど、今回だけは私もお父さんに賛成かなー。』 「ちょっと、知子ちゃん?」 知子ちゃんの意外な言葉に、かのこちゃんの語気も強くなります。 しかし知子ちゃんとかのこちゃんは長い仲。知子ちゃんは怯まず続けます。 『んー。だって長いこと見てるけどさ、かのこが全力(ぜんら)になった所見たこと無いしさ。 大抵ひとつふたつ脱いだだけで倒しちゃうじゃない。 はかいしんさま相手なら、全力になれるんじゃないかなーって。』 「いや、そりゃ成らないように頑張ってるわけでしてね。 っていうかそれだと、私が露出願望あるみたいじゃん。やめてよ。」 『え?ないの?』 「ねーよ。ぶん殴るぞ。」 ぐっと拳を握るかのこちゃん。 電話の向こうの知子ちゃんには見えませんが、今はそういうノリなのです。 『ははは、冗談だよ。まあでも、やっぱり戦ったほうが良いと思うなー。 今でも実は続けてるんでしょ?武術の練習。』 「む。いや、それとこれとは話が別で。っていうか、どうしてそれを。」 かのこちゃんは動揺を殺しながら、そう言いました。 『昔あれだけお父さんに憧れてたじゃない。ああいうのは、ちょっとやそっとじゃ諦めきれないものよ。 それに、戦ってるかのこちゃん、なんだか楽しそうだったし。楽しいことはやめられないからね。』 むっと眉間にしわを寄せて、かのこちゃんが言います。 「楽しそうって。そんなことはないでしょ。」 『そう?かのこちゃん「ヘヴィッメェモリィィィッズ!」って叫んだり、結構ノリノリだなあと思ってたんだけど。』 「やめて。なんか恥ずかしくなってきた。」 楽しそうな知子ちゃんの声を聞き、手で顔を覆うかのこちゃん。 勿論赤くなっている顔は知子ちゃんには見えませんが、今はそういうノリなのです。隠します。 『まあ、そういうわけで私は賛成。 それにさ、ほら。はかいしんさまと安全に戦う機会なんて、もう無いよ?どう?それでもやらない?かのこちゃん。』 「……」 実際の所、なんでも知っているだけあって、知子ちゃんの言うことは大分当たっていました。 かのこは、戦うことが好きです。練習も欠かしていませんし、全力を出してみたい、というのも本当です。ですが、それでも。 「……ありがと知子ちゃん。それでも私、戦うのはやめとく。話を聞いてくれてありがとね。」 それでも戦いたくない理由が、かのこちゃんにはあるのでした。 『そっかそっか。私が言えることはもう言ったからね。それなら仕方ない。 こちらこそ、付き合ってもらってありがと。それじゃまた明日、学校で!』 「うん。また明日、学校で。」 ぷつん。電話が切れました。 電話が切れた後も、かのこちゃんはしばらく悩んでいるようでした。 そんな時。コンコン。部屋の扉がノックされました。 「かのこ、父さんだ。入るぞ。」 ノックしてきたのは、かのこちゃんのお父さんでした。 かのこちゃんが返事をするより先に、父さんは扉を開き、入ってこようとしました。 かのこちゃんは蹴りを繰り出し、扉を閉めると同時に父さんをふっ飛ばしました。 「まだ返事してないだろ!娘の部屋に勝手に入ってくるな!」 「うぐぐ……相変わらずいい蹴りだ……。 折角かのこが悩んでいると聞いて飛んできたのに……。」 「待って。それ誰に聞いたの。」 「誰って、知子ちゃんだけど。」 あの野郎!かのこちゃんは人知れず拳を握りました。 学校で会ったらやっぱり一発くらい殴ろうと思いました。誰にも見えませんが、そういうノリなのです。 「あの~?入ってもいいかな、かのこ。廊下が暗くてお父さん怖いよ。」 おそるおそる、と言った様子で、父さんが声をかけてきます。 「いや、まあ、いいけどさ。でも話すことは何も……」 ないからね。そう続けようとしたかのこちゃんでしたが、入ってきた父の姿に、その続きは出なくなってしまいました。 入ってきた父が身にまとっていたのは、闇に溶け込む紺色に染められ、 所々に手甲や脚あてなどの防具、それも、すぐに外すことができる……がついた、忍者装束の様な服。 つまるところ、初里流の戦闘装束であり、今の父は、かつてかのこちゃんが憧れた、あの時の姿そのままの格好をしているのでした。 「いや、私も話をするつもりはない。 悩んでいるときは話をするのもいいが……体を動かして気分を変えるのが一番だからな!それ!」 父は手に持っていた物を、かのこちゃんに向かって投げました。 それは、折りたたまれたかのこちゃん用の戦闘装束でした。 「それを着て、道場まで来なさい。久しぶりに稽古をつけてやろうじゃないか。」 「いや、でも……」 「いいからいいから。たまにはお父さんの言うことも聞きなさい。……それじゃあ、道場で待っているからな。」 かのこちゃんに無理やり装束を押し付けて、お父さんは部屋から出て行きました。 「……」 残されたかのこちゃんは、しばらく装束を見つめた後、服を脱ぎ、装束を身に着けました。 初めて着るはずなのに、その装束は驚くほどよく、体に馴染みました。 ◆◆◆ 4. 午後9時12分。松羽田家にある道場には、かのこちゃんとお父さん、二人の姿がありました。 ウォーミングアップ中、かのこちゃんは道場の中を眺めていました。 久しぶりに来る道場でも、眺めてみると、色々な事を思い出します。 例えば、道場の隅、古ぼけた畳から浮いて、一つだけ新し目の畳があります。 あそこは、かのこが脚さばきの練習をしていた場所です。 毎日毎日繰り返す内に、あの場所の畳は他のものより早く擦り切れてしまい、新しい畳に交換されたのです。 あそこの壁の凹みは、父にこっぴどく負けた時に、八つ当たりで殴ってつけてしまったものです。 父は壁のことより、殴ったかのこの手のことを心配していました。 色々な思い出が、この道場には詰まっています。 「うむ、では始めるか、かのこ。」 「うん。そうしようか。」 ウォーミングアップを終え、二人は道場の中で向かい合いました。まずは一礼。 それから一歩踏み出し、二人の稽古が始まりました。 ザッザッ……ザッザッ……。間合いをとる二人の摺足の音が、道場に響きます。 先に仕掛けたのは、お父さんのほうでした。 左手でのフェイントの後、踏み込み、右の掌打。 更に踏み込みの最中に、左の防具を一つ外すことで、打撃の速度を加速させるというおまけ付き。 かのこちゃんは一歩間合いをずらし、その掌打を回避します。 更に一撃、また一撃。そして一つ、また一つと防具を外しながら、父の攻撃は続きます。 かのこはそれを捌きながら、その動きを見ていました。 脱ぐ動作は打撃の動きに紛れ、いつ脱いでいるのかも判別できません。 どの技も、動きはよどみなく、一つ一つの打撃が恐ろしいキレを持っています。 攻めに転じながら、決して守りは疎かになっていない。 戦う父の姿は、かつてと同じ、いや、それ以上に、輝いているように見えました。 それでもかのこは、やはり、この流派が嫌いだと思いました。 いや、だからこそ、かのこはこの流派が嫌いだと思いました。 バサリ。防具を外し終え、父は装束の上着を脱ぎ捨てました。 細身ではありますが、鍛えられた格闘家としての肉体が露わにまります。 父の動きは、ここに来てさらに加速しました。 かのこの対応速度を超え、その腹部に、右の拳が叩きこまれました。 かのこは、先ほどのやり取りを思い出していました。 (稽古をつけるって言ったけど、父さん。) (……私はもう、父さんより強いんだよ。) 「ヘビィメモリーズ」 かのこは小さく、自分の能力名をつぶやきました。 父が目を見開きます。かのこは既に脱衣していました。 かのこを捕らえたと思った拳は、芯をズラされ、脱いだ装束に巻き込まれていました。 そのままかのこは踏み込み、巴投げの要領で父を空中へと投げ出しました。 不味い、父は防御の姿勢を取ろうとしましたが、それはかないませんでした。 ヘビィメモリーズのもう一つの強み、柔性と重量の両立。 100倍の重さになった装束が、父の両手を巻き込み、封じています。 初里流の技で編まれた装束は、破ることもできません。 無防備な父の体を、かのこの蹴りが捕らえました。 ◆◆◆ 5. かのこは、この流派が好きでした。 正確には、かっこいい父さんがつかう、この流派が好きでした。 だから、父さんが、かのこに才能があると言ってくれた時には、とてもとても嬉しかったのです。 それからかのこは、初里流を継ぐために、とても沢山練習しました。 沢山沢山練習して、沢山沢山戦って、そして、父さんよりも強くなった時。彼女は気づいたのです。 自分がどれだけ強くて、どれだけ才能にあふれているかに。 そして、恐ろしくなったのです。自分がこの流派を継ぐ事が。 武術の流派は、何のために続いていくのか。時代を経て研鑽を積むことで、より強い流派になること。 最終的には、最も強い、最強の流派になること。それこそが、流派が続いていく理由です。 そう考えた時、かのこは、あまりにも強すぎたのです。 後にも先にもきっと、これほどの才能は出てこないだろう、と思えてしまうほどに。 もしもかのこが最強になれなければ、きっと、「初里流は最強にはなれない」と、証明できてしまうほどに。 服を脱ぐほど強くなる、そんなふざけた理論を信じて、愚直に研鑽を積み上げてきた過去の人達を…… そう、あのかっこ良かった父の努力も、無意味だったと証明することになってしまうと。 そう気づいてしまったのです。 もしももっとまともな流派なら、きっとかのこは、最強になれると信じれたでしょう。 でも、初里流はそれができないような、ふざけた流派でした。 だからかのこは初里流が嫌いで、でも、初里流のことが大好きでした。 だから、かのこは継がないことを決めました。 無意味だったとわかるくらいなら、わからないままのほうが良い。 たとえ、戦うのがどれだけ好きでも。どれだけ自分が強くても。 それが、かのこの出した結論でした。 ◆◆◆ 6. 「ぐはっ……!やはり強いな、かのこ……お前こそ初里流を継ぐに相応しい……フフフ……」 蹴りを喰らい、倒れたまま父が言います。負けたのにもかかわらず、その声はとても嬉しそうです。 かのこはそれを見て、あくまで冷静に答えます。 「何度も言ってるけどさ。私は絶対に、この流派を継がないから。」 父は苦しそうに起き上がり、上裸のまま、かのこに問いました。 「そう言うな。……なあ、かのこよ。流派というのは、なぜ、次の人間に継いでいくのだと思う?」 かのこは素直に、自分の思っていることを吐き出しました。 「……それは、やっぱり、前よりも強くなっていくためでしょう。 やっぱり、武術だし。最強を目指すために、継いでいくんだと思う。」 それを聞いた父は、うむ、と頷き、続けました。 「たしかにそれも一理ある。だがな。私はそれだけではないと思う。」 父はかのこから視線を外し、その上を、道場の天井を見つめました。 「なあ。戦うのは……楽しいだろう、かのこ。」 かのこは内心頷きながら、しかし何も言いませんでした。父さんは続けます。 「私はきっと、楽しさを伝えたいから、流派というのは続いていくのだと思う。 私もそうだ。この流派にしかない、初里流にしかない、楽しさを伝えたいから、お前に技を教えたんだ。」 父さんは何かを思い出しているようでした。 きっと、小さいころのかのこのことを、思い出していたのでしょう。 「だってなあ、かのこ。ワクワクしないか?歴史が進むにつれ、人は多くの武器を作り出してきた。 剣、鎧、銃、今ではミサイルなんてのも在る。それを持っただけで、人は強くなれる。」 「俺達の初里流は、そういうのじゃあ無いんだ。それとは逆だ。 剣を捨てるほど、鎧を脱ぐほど強くなる。何も持ってない、ただの拳が、俺達にとっての、一番の武器なんだ。」 父さんは初里流について、子供のように、本当に楽しそうに語ります。 「それって最高に……かっこいいじゃあないか。そのかっこよさを、自分しか知らないなんて……そんなもったいないことはない!」 「誰かに伝えたいと……そう思わないか、かのこ!」 父さんは、かのこを見据えてそう言いきりました。月の光りに照らされて、その笑顔は、まるで光り輝いているように見えました。 「私は初里流が最強がどうかなんて、どうでもいいんだ。いや、どうでも良くはない。だけどそれより、 この流派がかっこ良くて、何より、この流派で戦うのが楽しいと、そう、誰かに思って欲しいんだ。」 「だが、かのこ。私じゃ、お前を楽しませることはできない。 本当に情けないが。お前が全力を出せるほど、私は強くない。だからこそ。」 「私はお前に、はかいしんと戦って欲しい。あの人が相手なら、お前は全力を出せる。なあ、かのこ。」 「負けてもいい。勝てなくてもいい。どうか、はかいしんと……全力で、戦ってはくれないか。」 頭を下げて、父はかのこに頼み込みました。 やはり、私はこの人が、この流派が好きだと、かのこちゃんは思いました。 かのこの心は、もう決まっていました。 …… 午前0時。夢の戦いが、始まります。 ◆◆◆ 7. ぐーすかぴー。 眠りについたはかいしんさまは、まるで夢を見ているような錯覚に襲われました。 目の前には、自分の身長の10倍ほども在る、巨大な収納箪笥がドーンと立っていました。 その横には、やはりそれと同じくらいのスケールのテレビ、 そしてカーテン、窓があり、反対側には大きなテーブルが鎮座しています。 どうやら、ここは全ての大きさが10倍になった、どこかの一戸建ての家のようです。 「うーむ、まるで夢のよう……いや、実際夢なのだが。こういう無茶なこともできるんだなあ。」 はかいしんさまは一人で勝手に、これを作った夢の力に関心しました。 「わかってはいたが……この夢を作り出している能力は、私と同じ、『神』の領域にあるのかもしれんな。 私ですら、この中ではルールに囚われかねん。」 やはり、勝たねばならんな。はかいしんはそう思い直しました。 この夢の戦いは、勝てば、好きなだけ夢を見ることができます。 つまり、はかいしんは夢を破壊し切るまで、夢の世界に居ることができます。 しかし、負けた時の悪夢は、長さに個人差が在るといいます。 それはつまり、無色の夢が自己防衛のために、はかいしんをほうりだす可能性がある、ということです。 それ故に、はかいしんさまはまず、夢の戦いに勝つことが必要……と、考えたのでした。 「……しかし、戦わずして勝てると思ったのだが……うーむ。」 そう、だからこそ無駄な戦いは避け、相手に降伏を促したのです。 ですが対戦相手のかのこちゃんは、どうやら未だ降参していない様子。 「これはかのこちゃん、戦う気になったな……。 まあ負けはしないと思うが……知り合い相手となると、少々心苦しいというか……ん?」 その時、光が遮られ、はかいしんさまの居る場所が、わずかに暗くなりました。 はかいしんが上を見ると、巨大なちゃぶだいがひっくり返され、はかいしんに向かって飛んできているところでした。 「なるほどこれは、大変そうだな。」 ずずーん。呟くはかいしんさまの声を、衝撃がかき消しました。 ◆◆◆ 8. それは、はかいしんさまがまだ、はかいしんとして目覚めた直後、中学二年生の頃のお話です。 流れ込んできた力と記憶から、自分がどんな存在になったのかを理解したはかいしんは、 すぐに行動を起こし、包丁で自分の首を掻き切ろうとしました。 しかし、はかいしんのちからは強大でした。切りつけようとしたナイフのほうが、バラバラになってしまいます。 次にはかいしんは毒を飲んでみることにしました。 ですが、それも効きませんでした。体内に入った途端、毒は無害なものに分解されてしまうのです。 はかいしんは、高い高いビルの上から身を投げてみました。それでもダメでした。 はかいしんが落ちた途端、地面はスポンジのようにスカスカにはかいされ、クッションのように彼の体を受け止めました。 はかいしんさまの最初の悩み、それはどうやっても自分の力では死ねない、というものでした。 ◆◆◆ 9. なので、ちゃぶ台返しを食らった今も、はかいしんさまは全く無傷で立っていました。 やがて、埃が晴れます。ちゃぶだいを投げた人、 つまりかのこちゃんの姿が見えたので、はかいしんさまは話しかけました。 「我が名ははかいしん。 あらゆる牙を、猛毒を、災厄を退け、須く破壊をもたらす者である。 ……それでも我に挑むか、松羽田かのこよ。」 「はい。お父さんや友達に、色々言われて気が変わりました。すみません、はかいしんさま。」 そう答えつつ、かのこちゃんは悪びれた様子は余り見られません。服も戦闘装束に成り、やる気満々といった様子です。 「良かろう。だが、私は敵対者に容赦せん。どうなっても知らんからな……フン!」 はかいしんさまが手を掲げると、無色の破壊エネルギーがかのこちゃんに向かって飛んでいきました。 かのこちゃんは予め用意しておいた小石をぶつけ、エネルギーと相殺させます。 「ほう、我が力を防いだか。ではこれはどうかな!」 ぎゅぎゅぎゅーん。次にはかいしんは、何かをつかむような動作をしました。 すると、空中に、ヒモ状の破壊がもたらされます。 はかいしんさまが手を振るうと、まるでエネルギーが鞭のような動きで、かのこちゃんに迫りました。 しゅばばー。かのこちゃんは空気のゆらぎを頼りに、破壊を避けていきます。 さらに、バスバス。避ける合間に、特性の手甲を幾つか飛ばし、はかいしんさまに攻撃を仕掛けます。 「フン!効かん効かん!効かんぞかのこちゃん!」 しかし、手甲ははかいしんさまに届く前に破壊され、黒い塵となって宙に舞いました。 「確かにその服は頑丈だが……私を傷つける程の物ではない。 はかいしんのちからはすごいのだ。そして!今の攻撃で隙ができているぞ、かのこちゃん!」 「!」 はかいのひもを操りながら、はかいしんさまは空いた手で、破壊のエネルギーを放ちます。 攻撃の際に出来た僅かな動きの乱れを感知したのですね。 かのこちゃんは体に破壊を受け、即座に死亡……ということには、成りませんでした。 「なに!?」 なんと、かのこちゃんの装束が破壊のエネルギーを受け止め、その身を守ったのです。 はかいしんのちからもすごいのですが、初里流の磨いてきた技術も相当なもの。遠距離では出力が足りないようです。 「……!ヘビィメモリーズ!」 はかいしんさまの動揺を見逃さず、かのこちゃんは能力を発動します。しかし、服を脱いではいません。 (能力の空打ち?いや、これは……!) 訝しむはかいしんは、はっと上を見上げます。 天井では、リビングに取り付けられた電灯が、括りつけられた服の重さに耐えかね、今まさに落ちてこようとしていました。 「時間差……!ヘビィメモリーズは、時間差でも発動できるのか!」 ズズズーン。電灯が落。10倍スケールのほこりが舞い上がり、再び視界が遮られます。 もちろん、はかいしんさまは無傷です。 はかいしんさまは考えました。 (確かに破壊エネルギーを耐えることができるのは驚いた。だが、近づけば壊せないほどではない……。 家具を使っても私を倒すことができないのは、ちゃぶ台返しで理解しているはず。) (私を倒す方法はないように見える……だが、あの目は完全に私に勝つつもりで居る。 あるのか、なにか……私を倒す策が……あるというのか、かのこちゃんよ!) はかいしんさまは視界がない中警戒し、かのこちゃんの次の一手に備えました。 「ヘビィメモリーズ。」 そんな中、かのこちゃんが能力を使うのが聞こえてきました。 来るか、来るか!次はその装束をどう使うのだ、かのこちゃんよ! はかいしんはより一層警戒を深くします。そして、埃が落ち、視界が晴れました。 かのこちゃんは、はかいしんの目の前にいました。 ただし、すべての服を脱いだ、一糸まとわぬ姿で。 「ホアッ!?」 はかいしんはひどく驚きました。全裸の女子高生が急に目の前に出てきたのです。そりゃ驚きます。 しかしそれ以上に、あの、非常に頑丈な装束を全て脱ぎ去ったことに、驚きが隠せませんでした。 どう考えても、あれこそが勝利の鍵だろうと思っていたからです。 そんなはかいしんを尻目に、かのこちゃんは言葉を紡ぎます。 「これが私の策です。はかいしんさま。」 そして、はかいしんさまの目の前で拳を握り、名乗りを上げました。 「希望崎学園二年、そして初里流拳術正当後継」 「松羽田かの子、行きます。」 はかいしんは思いました。これが策。やぶれかぶれではないのか? 否、勝つ気なのだ、この子は。はかいしんたる私に、生身で。 だが何故、どうやって? 「まさか」 戦いの最中、武器を、鎧を捨てる理由は、二つしか無い。 負けを認めた時か、もしくは、それが、『必要でない』時だ。 (技術があるのか?『はかいしんのちから』を『突破』する技術が、この世に存在するというのか?) 破壊神がその考えに至った、次の瞬間。 全力の拳が、はかいしんの顔面に突き刺さりました。 ◆◆◆ 10. 時は、戦いが始まる前の、松羽田家道場に遡ります。 頭を下げる父に向かって、かのこちゃんが問いました。 「……でもさ、戦うって言ったって、どうやっても勝てないと思うんだけど。 はかいしんさまだよ。近づいただけで死んじゃうじゃん。」 かのこちゃんの問は最もです。ですが父さんは、待ってましたとばかりに得意気に答えました。 「言っただろう。稽古をつけてやると。 確かにかのこ、もう私よりお前のほうが強いかもしれない。 だが、それでも教えられるものも在る。」 そう言って、父さんはかのこちゃんに、最後のレクチャーをはじめました。 「まず。魔人能力というのは、認識を人に押し付けることで世界を変える物だ……ということは知っているだろう?かのこよ。」 「まあ、なんとなくは。」 かのこちゃんは記憶を引き出し、魔人能力について説明しました。 「皆が海を赤いと思ってたら、それは本当に赤いのと同じ。 だから、赤いって言う認識を押し付ければ、本当に海は赤くなる。っていうやつでしょ?」 それを聞いて、父は満足そうにうなずきます。 「うむ、その通り。そして、神という奴らが強いのは、その点に在る。 例えば、何でも貫く矛と、何でも受け止める盾があったとしよう。」 そう言って、父さんは手を使って矛と盾を表現し、それをぽこぽことぶつけ合います。 「魔人同士なら、どちらの認識が優先されるのかは、完全に運。やってみなければわからない。」 盾が貫かれたり、矛が弾き返されたり。父さんは手を使ってそれを表現します。 「だが、神という奴らは違う。もしもこの矛か盾、どちらかを神が使っていたのなら。 ……優先されるのは、神が持っているほうになる。」 今度は、盾が矛で貫かれる様子を示します。 先ほどとは違って、何度やっても壊れるのは盾のほうです。 「だからこそ、はかいしんは強い。 何でも防ぐ能力があったとしても、何でも壊すはかいしんのちからとぶつかれば、優先されるのははかいしんのちからだ。 ゆうしゃのつるぎは、いわば例外だ。ここまではいいな?」 かのこちゃんは頷きながら、しかし納得出来ない様子で訪ねます。 「わかったけど、それと私の戦いとで何の関係が?より勝てない気分になってきたぞ。」 まあ待て、慌てるな。父さんは続けます。 「たしかにな。魔人能力は認識を押し付けることで成り立っている。 神の認識は、魔人よりも優先される。魔人能力では、神の認識に勝つことはできない。 勝ち目はないように思える。だが」 父さんはピッと指を立て、かのこに言いました。 「もしも仮に、魔人能力を使わずに認識を押し付ける事ができたら、どうだ? はかいしんに、『初里流には、私の力を超える何かが在る』と、思わせることができたら?」 得意気に話す父ですが、かのこちゃんはそれを否定します。 「いや、信じこませても、現実が変わるわけじゃないでしょ。確かに理屈は通ってると思うけど、そんなの聞いたこと無いし。」 「いいや、そうでもない。在るんだ、実例が。昔の人達は、そういった技術のことを一括りに、『魔術』と呼んでいた。」 魔術。かのこはその言葉を、希望崎学園でも聞いたことがありました。 かのこが入学する前に起こったハルマゲドン……魔人同士の抗争。そこで、魔術を使い、戦いを終結した者がいたと。 「……そういう変な魔人能力かと思っていたけど、まさかね」 「そのまさかだと、私は思っている。それと同じことをする。 ……本来なら、かなり大人数の認識が必要らしいが、今回信じこませるのは、はかいしん一人でいい。 『神』の認識は、他の『魔人』の認識よりも遥かに強大だからだ。それを利用する。」 「……初里流は、脱げば脱ぐほど強くなる流派。それに。松羽田家の服は、はかいしんさまのちからに耐えることができる……」 かのこちゃんは、自分の身にまとった装束を見下ろしながら、つぶやきました。 「そうだ!その二つを利用すれば、はかいしんに信じこませることができるかもしれない!初里流だからこそ!」 「……勝てるかもしれない……はかいしんさまに、勝てるかもしれない……!」 かのこちゃんの目に、メラメラと闘志の炎が燃え上がりました。 しかし、そこでふと、かのこちゃんは疑問に思いました。 「父さん。勝てるかもしれない、っていうのはわかったけど。 なんでそんな神とか魔術とかについて詳しいの?まさか、はかいしんさまと戦うことになってから調べたんじゃないよね。」 父さんはははは、と笑ってごまかそうとしましたが、思い直して答えました。 「うん……ははは。まあ、なんだ。前から調べてたんだよ。はかいしん様に勝つ方法はないか、とね。 ……いや、何、私じゃ勝てないとわかってはいたさ。かのこほど強くもないからな、私は。」 「まあ、それでも勝ちたいと思ってしまうのが、男というものなんだ。ハッハッハ!」 父さんは照れたように笑いながら、そう言いました。 ◆◆◆ 11. ……やった!上手く行った! 拳がはかいしんに届いたのを見て、かのこちゃんの心に達成感が広がります。 全裸を男の人に見られたことは後で思い出し、非常に恥ずかしい思いをするでしょうが、今は関係ないのです。 (このまま、けりをつける!) そう、まだ勝負はついていません。一撃入れただけです。 油断せず、かのこちゃんは追い打ちをかけようとします。 「ぬ……ああああぁ!」 はかいしんはゆうしゃと戦った時のように、爪を伸ばし、かのこちゃんを牽制しようとします。 しかし、今のかのこちゃんは全力状態。流れるような動きで爪を掻い潜り、強烈なボディブローを繰り出します。 「ぐげぇ……!」 怯んだはかいしんに向かって、かのこちゃんは渾身の蹴りを叩き込みます。はかいしんは勢い良く吹き飛びました。 「うぐ、く……うおお……!」 かのこの父すら倒した蹴りを受けてなお、はかいしんは健在でした。 頭を抑えながら、よろよろと立ち上がります。かのこちゃんが言いました。 「はかいしんさま。もう勝負はついています、たぶん。私の勝ちです。できれば降参して欲しいんですけども。」 かのこちゃんは落ち着いた声で降伏勧告をします。 しかし、はかいしんはそれに応じるつもりはありませんでした。 「フ……!はかいしんに降伏など……笑わせる。それにまだ、勝負はついていまい。ズリャア!」 バシュン!はかいしんが力を使います。 床の一部がはかいされ、粉々になり、かのこちゃんの視界を塞ぎました。 「ダァーッ!」 はかいしんは回りこみ、死角から爪で襲いかかります。 かのこちゃんはそれを読みきり、逆にカウンターでパンチをお見舞いしました。 ですが、はかいしんも負けてばかりではありません。 それに耐え、無理やりかのこちゃんをつかみ、地面に叩きつけました。 「ヌ……オオオオオオ!」 「な、なに!?」 驚いたのはかのこちゃんです。そう、よく見るとはかいしんの体は先程よりも二回りほど大きくなっているではありませんか。 これははかいしんのちからの応用です。 爪を伸ばして攻撃することができるように、はかいしんは自分の筋肉を肥大化させ、かのこちゃんを破壊しようとしているのです。 (……でも!) バキッ。そのままマウントを取ろうとしたはかいしんを蹴り飛ばしながら、かのこちゃんは立ち上がります。 「クァアアー!」 「ふんー!」 立ち上がりを狙ったはかいしんの拳を捌き、かのこちゃんはローキックを決めます。 ガードが下がったところでアッパーを決め、再び距離を取りました。 (それでも私のほうが、強い!) 「うりゃああー!」 既に立つのがやっとのはかいしんに、かのこちゃんはとどめを刺すため、拳を繰り出しました。 ◆◆◆ 12. 昔々のお話です。 中学、高校を経て、はかいしんは旅に出ることにしました。 今までのはかいしん達と同じように、世界から捨てられたものを集め、仲間を作るためです。 その御蔭で、まおうや溶岩魔神、氷の女王(バイト)、四天王(詳しく描写されない)など。 様々な部下を手に入れたはかいしんは、とやまに拠点を作りました。 それが、今のはかいしんの城です。彼はそこで、宿敵たる勇者が来るのを待ちました。 二年、三年。多くの偽勇者を追い返した後、遂に本物の勇者が現れました。 勇者さえ倒せば、世界に敵はいません。 しかし、はかいしんたちはたった一人の少女に、手も足も出ませんでした。 はかいしんは死を覚悟し、殺せと言いました。しかし、彼女は従いませんでした。 「言うたやろ?遊びに来たって。ほれ、これだけ人数いるんやし、なんでもできるで!ネオジオなんてどうや?おもろいで!」 彼女は、本気で遊びに来ただけでした。 それからです。はかいしんは事あるごとに街に駆り出され、人々と関わるようになったのは。 はかいしんにとっては、忌々しい……忘れられない思い出の一つでした。 ◆◆◆ 13. 「うりゃああー!ッ……!?」 異変が起こったのはその時でした。 拳を繰りだそうとした瞬間、かのこちゃんの視界がぶれ、拳は大きく空をきりました。 勢いに負けて、かのこちゃんの体が地面に倒れます。 「な、あ、あれ?」 かのこちゃんは立ち上がろうとしますが、バランスが取れず、上手く行きません。 見ると、はかいしんも息を切らして地面に倒れています……息? 「これは……空気……空気が破壊されている……?」 「……」 はかいしんさまは答えません。ですが、正しくそのとおり。 はかいしんは周りの空気、正確には酸素とかそういうのを破壊していたのです。 あと、酸素は壊れるとオゾンとかそういうのになるって本に書いてあったので、 多分体に悪い物も空気に混じっています。はかいしんのちからはすごいのです。 体を肥大化させたのは、勿論身体能力をあげるため。 しかしそれ以上に、注意を自分だけに集めるためだったのですね。 (でもはかいしんさまにはダメージが有る……先に意識を失うのは、あちらのはず……!) 空気が破壊され、徐々にかのこちゃんの意識が遠くなっていきます。 勿論、空気が破壊され苦しいのは、はかいしんも同じです。 (あちらのほうが、ダメージが有るはず……はず、なのに……なのに……。何故……!) しかし、かのこを睨むはかいしんの眼光は、少しも曇っていませんでした。 (当たり前だ……今回ばかりは……私は……負けるわけには……いかんのだ……!) 痛みと酸欠で遠くなりそうな意識を、はかいしんは必死に保ちます。 はかいしんには、負けられない理由がありました。それは当然、ゆうしゃのことです。 別に、はかいしんさまは彼女のことが好きなわけではありません。 地の文が言うのですから、間違いありません。本当ですよ? それでも、はかいしんさまが、彼女に救われたのは事実です。 はかいしんのちからは、その意志にかかわらず、時間がとともに強くなり、必ず世界を破壊します。 それを防ぐ方法は、勇者が破壊神を殺すことしかありません。 はかいしんは、そのことを知っています。今までの破壊神も、それを知っています。 だからこそ千年もの間、現れた破壊神は全員、『自ら望んで』勇者に殺されているのです。 ゆうしゃもまた、それを知っています。 ですが、彼女はそれを是としませんでした。 彼女は、はかいしんさまのことが好きなのです。 世界なんぞよりも、はかいしんさまのほうが大事なのです。 もちろん、勇者と破壊神の関係を覆すことはできないのでしょう。 最後には、ゆうしゃははかいしんを殺すことになるのでしょう。 それでもゆうしゃは、世界の敵として死のうとしていたはかいしんを、世界の側に戻してくれました。 皆から愛されるような存在にしてくれました。 だからこそ、はかいしんは彼女を見捨てることはしないのです。 そして何より。もしも魔人と戦ったとして、あのゆうしゃが、負けることなどあるでしょうか。 歴代の勇者全てを上回る才能と技術を持ち、 はかいしんのしろを十数秒で攻略するゆうしゃが、万全の状態で負けることなど、あるのでしょうか。 はかいしんは思うのです。ゆうしゃはずっと、誰よりも長く、はかいしんの横にいました。 そしてはかいしんのちからは、あらゆるものを破壊してしまいます。 もしかしたら、ゆうしゃの体は、戦う前からボロボロだったのではないか。 すぐに戦いを切り上げるのは、それを隠すためだったのではないだろうか、と。 そうだとしたら、自分を救った相手が、自分のせいで苦しんでいることに成ります。 たとえ、いずれ覚め、忘れられる夢だとしても。はかいしんはそのことが、何よりも許せませんでした。 (負けん) (お前は強かった。今まで戦った勇者の誰よりもだ。だが……) (ゆうしゃほどではない……!私は……私は絶対に、負けんぞ……!松羽田かのこよ!) そして、静かに決着が訪れました。 「ぐ……く……。あ……。う……。……。」 「……!…………!」 先に意識を失ったのは、はかいしんではなく、松羽田かのこの方でした。 はかいしんは、自分の限界を破壊したのです。 戦闘空間が崩れ、瑞夢と悪夢への、転送が始まりました。 「……すまないな、かのこちゃん。だが……悪夢はすぐに終わる。」 「夢の戦いは、無色の夢は、この私が破壊する。」 はかいしんは、無色の夢、夢の戦い。全てを破壊するために、力を使いました。 ◆◆◆ 14. 「はっはっはー!たーまやー!」 ひゅー……どどどーん。 打ち上がった花火を見て、はかいしんの横に座ったゆうしゃが声を上げます。 はかいしんとゆうしゃの二人は、自宅の庭に座り、商店街の花火大会を見ていました。 夢の戦いから5年後。 あの時は大変でした。はかいしんは負けかけ、ゆうしゃの体も案じた通りボロボロ。 もうダメかと思われましたが、事情を知った商店街の皆や、松羽田家の協力もあって、ゆうしゃはすっかり元気に成り、 はかいしんのちからも、完全に制御が効くように成りました。 死の運命は避けられたのです。 それからというもの、年々派手になる花火大会を見るのが、二人の決まり事に成りました。 「はっはっは!綺麗やなー、はかいしん!」 「フン!毎年毎年、良くも飽きないな。やはり定命の者の考えることはわからん。」 「そう言いながら毎年付き合ってくれるくせにー!ウリウリー!」 「やめろ!突くな!馴れ馴れしいぞ貴様!」 ひゅーん、どどーん。はかいしんがゆうしゃに気を取られている間に、特大の花火が上がりました。 「ああー!ほら!貴様のせいで!今の大きいのを見逃したではないかー!」 花火を見逃し、かいしんはぷんぷん怒ります。それを見て、ゆうしゃはけらけらと笑いました。 「ええ~?いいやろ来年も見れるんやから~。不死者なんやから、わいらと違うこと考えてな~。」 「ググググググ……これだからゆうしゃは……グググ……」 「ほら、次が上がるで!たーまやー!」 ぴゅ~~~~……!ぱらららら~…… 空に上った光が、小さく成って、空に散らばっていきます。 ゆうしゃがそれを見て、また、嬉しそうに声を上げました。 「いやー、ほんまきれいやなー。いくら見ても飽きんわ。な、はかいしん。」 「フッ。そうだな。認めてやろう。綺麗じゃないか。本当に、な。」 はかいしんはそんなゆうしゃを、悲しそうな目で見ていました。 「本当に……綺麗な夢じゃないか。望んだ通りの。」 はかいしんはそのまま、横にいた勇者の肩を抱き寄せました。 「おわっ!ちょ!はかいしん!?どうしたん急に!」 突然のことに、ゆうしゃが赤くなり、うろたえます。はかいしんは続けました。 「だが、何か違うんだよな。多分、私は私の望み通りにならない奴が好きだったのだろう。 全く!自分の望み通りにならないのが望みとは、本当に面倒な男だな、私は。」 「はかいしん、何言っとるんや?ちょっと、あの、急にこんな、困るで……」 ゆうしゃはしおしおと小さくなります。 これからすることを思うと、はかいしんは胸が張り裂けそうでした。 しかし、はかいしんはやらねばならないことがあります。このまま夢を見続ける事はできません。 そして何より。 「すまないな。夢ならもう、随分前に叶えてもらったよ。」 「はかいし……!?」 躊躇う心を破壊し、はかいしんは力を使いました。 一瞬だけ怯えた表情を見せ、ゆうしゃは黒い塵になって消え去りました。 ゆうしゃだけではありません。先程まで座っていた縁側や、その下の地面、見えていた町並み、 空に広がる星々の光。全てが真っ黒な塵になって破壊されて行きます。 全力で力を開放し、宙に浮かびながら、はかいしんは言いました。 「この夢に救われるものも居るのだろう。この夢を、必要とする物も居るのだろう。」 「……もしかしたら、私もそうなのかもしれぬ。だが、だとしても……破壊させてもらう。 野球に誘われた礼を、まだしていないからな。」 空間にヒビが入り、瑞夢と悪夢、そして夢の戦い、全ての境界が破壊され、夢の世界すべてが混ざり合っていきます。 その時、異変が起きました。 はかいの残滓の黒い灰が、渦を巻いて集まり始めたのです。 黒い灰は巨大な腕を形作り、はかいしんをにぎりつぶそうとします。 はかいされんとする、夢の世界最後の抵抗でした。 「お前も消えたくはない……か。だが、すまんな。 どれほど美しくとも、夢は必ず覚めるものなのだ。そしてわたしははかいしんだ。」 その腕がはかいしんを握りつぶす直前。はかいしんは巨大な腕に向かって右腕を掲げました。 「ゆうしゃいがいに、私を倒せるものはいないのだ。 ……さっきは危なかったがな。さらばだ!夢の戦いよ!」 はかいしんのからだから、白い光が発せられました。 その光は黒い腕を、世界をうめつくす黒を、全て破壊していきます。 やがて光がは、はかいしんの視界、全てを塗りつぶし、そして……。 ◆◆◆ 15. 「マグロ……マグロ漬け丼がぁ~……!……ハッ!」 柔らかいベッドの上で、ゆうしゃは目を覚ましました。 今までひどい夢を見ていたような気はしますが、全く思い出せません。 「う~んなんや目覚め悪いなー……。そもそもこんなベッドうちにあったけ?……ん?おわっ!?」 目をこすりながら、顔を上げると、そこにははかいしんが立っていました。 「目覚めたか、ゆうしゃよ。」 そのゆうしゃに向かって、はかいしんはゆうしゃのけんを投げました。 「うわっち!は、はかいしん!あ、そや!今日は遊園地に行く日やん! ……もしかして、うち寝過ごしたん?うわー!やらかしたぁー!ほんまごめん!ジュースおごるから許してや!」 ゆうしゃは剣をなんとか受け取り、大事なことを思い出して、すぐさま土下座しました。 はかいしんはそれを鼻で笑い、 「遊園地などどうでもいい。それよりも剣をとれ。今日こそ、決着を着けるぞ。ゆうしゃよ。」 と言いました。 「なんや、急に。しかもそっちから言い出すなんて珍しいやんけ。 うし、じゃあそっちが負けたら、うちが寝過ごしたのはちゃらな!」 「……」 お気楽そうに言うゆうしゃに対し、はかいしんは深刻そうな顔をしています。 流石に様子がおかしいと思ったのか、ゆうしゃの顔がすこし曇りました。 「いいや、ゆうしゃよ。今回はそうは行かない。どちらかが死ぬまで戦うつもりだ。」 「は?急に何言っとんねん!頭でも打ったかいな!張ったおすではかいしん!」 怒るゆうしゃにたいして、はかいしんはあくまで冷静です。 「できるかな、今のお前に。知っているぞ、私に隠してはいるが、貴様の体は既にボロボロだ。 フン。いつまでも、私の側になど居るからだ。愚かな女よ。」 「な……!」 図星を突かれ、ゆうしゃの言葉が止まります。はかいしんは続けます。 「はかいしんとゆうしゃが仲良しこよしなど、所詮夢物語にすぎん。 そして、夢はいつかは覚めるのだ、ゆうしゃよ。今が目覚めるときなのだ。」 言葉を紡ぐはかいしんの表情は、笑っていながらも、どこか悲しげでした。 「いいか、もしも私が生き残ることがあったら、私は世界を滅ぼすぞ。 私ごとな。もしもお前が負けても、そうだ。私は本気だ。ゆうしゃよ、覚悟しておくことだ。」 言い切り、はかいしんは部屋を後にしました。ゆうしゃは何も言うことができず、はかいしんの背中を見送りました。 こうして、はかいしんとゆうしゃの、最後の戦いが始まりました。 結論から言うと、世界が滅びることはありませんでした。 遊園地のパンフレットは、ついぞ使われることはありませんでした。 ◆◆◆ 16. びゅおうびゅおうびゅおーう。 風が吹き荒れる、雨の日のこと。 高いビルの上に、一人の少年が立っています。 少年の手の中には、半ばほどから折れた、一本のナイフが握られています。 少年が手を握ると、ナイフは黒い塵になって宙に舞いました。 それを見届け、少年はビルから、何もない空中に足を踏み出そうとしました。 その時です。後ろの方から、少年に向かって誰かが話しかけてきました。 「おーい!そこの!そう!お空にお散歩しようとしてる、そこの君や!」 「それ、無駄やから!近隣住民の迷惑になるだけやから!やめとき!」 少年は声の方を振り向きました。 そこには、見たことのない、けれど、とても懐かしい顔がありました。彼女は言いました。 「なんや、呆けた顔して!……ったく、ホンマ大変やったんやで? あの後立ち直るのも、不老不死にになるのも、あんたを探し当てるのも!もうちょっといい顔してほしいなあ。」 女性は少年に歩む寄りながら続けます。 「まあ、もしかしたら、何言われてるかわからへんかもしれんけど、ちょっと付き合ってや。 ……何十年も待ったんや、それくらい許されるやろ。」 女性は少年の横に来ると、馴れ馴れしく肩を組みます。 「ったく、覚めない夢はないとか、偉そうなこと言いおってなあ。このアホ、私に言わせてもらえばなあ。」 文句を言いながらも、彼女の顔は、とても嬉しそうでした。 「この私に、叶えられない夢なんて無いねん。」 ゆうしゃはごそごそと鞄をあさり、一枚の紙を取り出しました。 それは、100年近く前に無くなった遊園地の……やたらと書き込みの多いパンフレットでした。 少年はそれを見て、思わずつぶやきました。 「まったく、お前は……本当に勝手な女だな。ゆうしゃよ。」 ゆうしゃはそれを聞き、嬉しそうに言いました。 「今度はそっちの遅刻やで。なあ、はかいしん。」 「遊園地、行こうや。」 はかいしん本戦SS『遊園地に行こう!その2』 おわり。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/69.html
目を覚ますと、水車はまず、カーテンを開く。朝の光を体いっぱいに浴びて、伸びをする。 寝るときは下着だけだから、腰まである長い髪がお尻をくすぐる。 「んんーっ!ふぅ。」 私に必要なルーティンワークの1つだ。雨の日や曇りの日は、できなくて少し寂しいけれど。 「胸、また大きくなってる…やっぱり、まだ私でも成長するんだなあ。」 もうとっくに成長は止まったものと思ってたけど、"こっち"は成長しているみたいだ。 とは言っても、そんな大きいわけじゃない。 CかD。でも、これくらいが丁度いい。と思う。多分。 いつもと同じ日。今日もまた、いつものように、私の周りにいる"ニューヨーク・オーシャン"はきらきらと光り、朝の光を喜んでいる。 その様子が眩しくて、私は少し目を細める。最近は、前ほどではなくなったけど。 でも、やっぱり私はこの"オーシャン"が好きなんだと思う。 私はまた、ぼふん、とベッドに座り、目を瞑って"オーシャン"に口付けをする。 今はこれだけで満足できる。 私にはもうこの子より大事なものがあるから。 「おはよう、オーシャン。」 "オーシャン"に微笑みかける。私はべつに、この子のことが嫌いになったわけじゃない。 「おトイレは困るけどね…。」 悩みの種をつぶやいて、私は少し、頬を掻いた。 でも、仕方ないものは仕方ない。"ニューヨーク・オーシャン"を手に入れたとき、そんなリスクすらも愛おしく思ったものだ。 今では、マジックミラーの窓で中が隠された、こんなお家でしか"オーシャン"と遊べない、臆病者になってしまったけど。 「よしっ!」 洗面所で、顔を洗う。前は"オーシャン"に洗ってもらってたけど、さすがに今はそんな子供じみた真似しない。 そして、眠気覚ましに、勢いよく頬を叩く。あとに影響するといけないから、跡がつかない強さで。 「今日も1日、頑張るぞっ!」 そう言うと、水車は、"ニューヨーク・オーシャン"を解除した。 すると、人が変わったかのように、すぅ…と、水車の纏う空気が変わっていく。冷たく、冷たく変わっていく。 これも、ルーティンワークだ。"オーシャン"がいない時、水車は芸能人の顔になる。 今日は特に、笑ってもいられない理由があった。 「さってと……"無色の夢"か。とりあえず、マネージャーに電話しねぇと。」 最新型のスマートフォンを出す。 「俺は....負けるべきなんだろうな。"オーシャン"の為にも。俺自身のためにも。」 相手はいつもワンコールで出る。 「もしもし、戸川っす。えっと、とりあえず今日の予定、オールキャンセルでお願いします。ええ。で、ちょっと特番やって欲しいんすけど。はい。」 洗面台には、まだ"オーシャン"の残滓が残っていた。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/35.html
ロリー太&小梅 プロローグ ピーンポーンパーンポーン (サブイネンが予選落ち敗退しました。んで、サブイネンの活躍するSSは もう完成してしまったので彼の活躍は後に幕間SSの方で書くとして このキャンペーンは別キャラで参戦する事に、そしてダイス任せ方式ではなく 通常のSS形式で行く事になりました) 「という事は私の時代ねー!!」 ゴオオオオオオオオ 突風とともにパツキン美女が舞い上がる。 「アアーン風が、風が気持ちいいのぁー」 この人物はオッペケペ梅子。サブイネンと共にキャラ候補に挙がっていた存在だ。 梅子が風に舞いながら快感に浸っているうちに服が一枚また一枚と脱げてついには 下着姿になってしまう。 ゴオオオオオオオオオ 髪が乱れ胸がバインバインと揺れ、普通の女性より一回り大きい怪しげで魅力的な股間が震えている。 圧倒的エロスがそこにあった。だが・・・ 「もう我慢の限界でごわすー!」 突如野太いオッサンの声で叫ぶ梅子。風の勢いがさらに増し、ブラと一緒にオッパイが飛んでいき コルセットが外れ三段腹が露出し、パンツが脱げ股間からテープが外れチンチンが飛び出し ヅラが飛びハゲのオッサンとなる!!そう、梅子はセクシーさで周囲を魅了してから全裸になって 正体を現しショックを与える事に快感を見出す真の変態だった。 「対戦相手のみなさん、おいどんが梅子でごわ。こんなだけどよろしくー」 「相手の迷惑考えろや!!」 ポクポクチーン! 「ぶべらぁ!」 サブイネンの連打で血反吐を吐きぶっ飛ぶ梅子。 サブイネンの打撃は聖属性。相手の属性でダメージが変化する。 梅子に対してはダメージ15倍だ。このオカマのオッサン、過去に様々なキャンペーンで暗躍し シャレにならん悪事働いてるのだ。なので、聖属性のダメージ倍率もシャレにならん。 梅子はワンツーパンチだけでグロッキーになっていた。 「な、何をするでごわす~おいどん死にそうでごわす~」 「お前みたいなん出たら対戦する作者さんが扱いに困るやろ!大人しくしとれ」 「嫌でごわす、ここ最近黒幕ムーブばっかでキャラとしては活躍してないでごわす。 萎第一形態をぶっ倒した時ぐらいのインパクトをもう一回読者に与えたいでごわす」 「萎を倒したのはお前一人の成果やないやろ」 「うっさいハゲ!おいどんはSSバトルに君臨してやるんでごわす。 という訳で女装リバース!!」 ヒュゴオオオオ 梅子が脱ぎ捨てた女装アイテムが逆向きの突風によって舞い戻り装着されていく。 金髪のヅラ、股間用テープ、以上二つ。 「あれ?でごわす」 圧倒的に女装アイテムが不足していた。 ボディコン服もブラと偽オッパイもパンツもストッキングもヒールも無い。 今の梅子は金髪のヅラ被ってチンコ隠しただけのオッサンだった。 「足りない女装アイテムどこいったでごわす?」 「ここや」 サブイネンの両手には足りない女装グッズが握りしめられていた。 「か、返すでごわしょ?」 サブイネンはゆっくりと首を横に振った後、女装グッズを軽く左右に引っ張る。 「妖刀村正が何で闇属性かって知っとるか?」 専門用語! 能力バトル特有の豆知識の披露だ! 「闇属性武器の代表格である妖刀村正。せやけど、あの刀は最初から 闇属性の武器として作られた訳やない。使用者の残虐行為や周囲の根も葉もない噂や 後世の作家のオリジナル設定とかが積み重なって闇属性武器になったんや」 「それが今の状況と何の関係があるでごわす?」 「つまりな、お前が愛用しとる女装用品なら間違いなく闇属性やからな」 バリバリー 「ンアーッ!おいどんの偽パイがー!コルセットがー!スカートとかも無残に引き裂かれ!」 「ワイが軽く引っ張るだけでこうなるってこっちゃ」 バラバラになり風化し跡形もなくなる女装グッズども。 それを見た梅子もショックからか足元から徐々に消滅していく。 「ショック!こんな面白い大会に参戦できんとは悔しいでごわす!おのれー! おいどんはあきらめないでごわすよー、不完全な女装しか出来んでも 参戦権がなくとも道は残されてえええええええええ」 (そんなこんなで参戦キャラはオッペケペ梅子でもサブイネンでもない新キャラになりました。 ありがとうサブイネン!そして読者の皆さんには汚いものを見せてすみませんでした。 引き続きプロローグSS本編をお楽しみください) ピーンポーンパーンポーン 【こっから本当のプロローグ】 呂利近太の人生が激変したのは今から一年前、21歳の時だった。 運動音痴・要領悪い・ブサイク・コミュ障・近眼、その上高校時代に 魔人になってしまった近太の人生はハードモード。 だが、自分は雑魚だという自覚だけはしっかりもっており、雑魚なりの 幸せルートを考え実行に移す事にしていた近太は高校卒業直後免許を取り、 3年間アルバイトをしながらバスの運転手を目指していた。 現在運送業は深刻な人不足に陥っている。大型免許さえ手に入れれば自分でも 家族を養えるぐらいの収入のある仕事に就ける。そう思いながら日々を過ごしていた。 だが、近太の運命を変えたのはバス会社への就職では無かった。 バス会社への就職が決まりアルバイトを辞めた後、入社までの数日間暇が出来た 近太は運転技術向上の為、愛車・近太号(白のワゴン)でドライブをしていた。 人通りの無い裏路地を何周もグルグルと運転していると突如上から声がした。 「カラコンよし、クマパンツよし、目標よし、レッツゴー!」 ゴオオオオ、ビターン!! 「うわっ」 いきなりの強風、そして飛んできた何かが近太号の窓に叩き付けられた。 近太の眼の前には小柄な白い肌と肌より白いクマパンツが窓ごしに写っている。 咄嗟にブレーキを踏んでいなかったらロリも車もエライ事になっていただろう。 「うーん、イタタタタ。ハッ、キャー!お兄ちゃん何パンツみてるのよぉー!」 一人のロリが器用にもワイパーとフロントガラスに挟まれていた。 怪我は無さそうである。 脱出しようとしてフロントガラスにピッタリと貼りついたお尻が左右に動く。 お尻を近太に向けたままお尻の持ち主が顔をこちらに向けプンプンと顔を赤らめ怒る。 「金髪・・・オッドアイ・・・」 近太の精神が大きくうねりだす。この感覚は魔人能力に覚醒した時以来だ。 「ちょっと!お兄ちゃん聞いてるの!私のパンツ見たのなら謝りなさいよ! 後、ここから降ろしてよぉー!」 「あ、ああ」 ロリに叱られた近太は反射的にワイパーを動かした。これでワイパーに挟まれた状態から 抜けられるだろうと判断しての行動だ。だが、それが思わぬ結果を呼び込む。 「ふえええっ?」 ワイパーに引っ張られずるんとクマパンツが脱げた。 そして脱げたパンツを追う様に身をよじり反転するロリ。 当然、近太にはロリの正面が見える訳で、ロリはパンツが脱げたままで。 「・・・マジか」 衝撃的なものを見たショックで近太のメガネがパリンと割れる。 50センチ先、ガラス越しにロリのアソコ丸出し。 ロリの股間がナメクジの様にガラスにぺったりとくっついていた。 股間にはどういう訳か縦スジにそってテープが貼られていたが そんな事は今の近太には些細な事だった。 近太の魔人能力は『ロリコンボーイ』という。 ロリとの触れ合いでダメージ回復とパワーアップが可能となる能力だが ロリの好みにうるさい近太はそこらのロリではこの能力を使えなかった。 結果、魔人な上に変態で体力は凡人以下という評価だけが広がり、 学生時代はとことんイジメられた。 魔人能力さえ使う事ができたら、理想のロリさえ手元にいたら、 近太がそう思ったのは一度や二度では無い。 学校を卒業し月日が流れると共に近太の心の傷は塞がり、 普通の幸せを手にする事だけを考える様になっていった。 しかし、こんな時に、数日後には社会の歯車となる事が決まったこんな時に かつて近太が求めた理想のロリが現れたのだ。 「ねえ君、何歳」 「小梅は11歳だよ!」 『右目金色左目青色のオッドアイで年齢は11歳、子供らしい 肉感のある白肌で金髪ロングヘアー、頭からは 石鹸の香りがして自分の事をお兄ちゃんと呼んでくれるけど 血の繋がりはない、強制しなくてもベストなタイミングで エロハプニングしてくれるロリ』 自分の理想と寸分違わぬロリが空から降って来てエロハプニングしてるという現実。 「フォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 髪を逆立てギュインギュインと気を張り巡らせ股間をバッキバキにする近太。 一旦外に出てロリを抱きしめると車の中に入れる。 そして実家にピポパと電話。 「もしもしカーチャン?俺近太。俺に妹っている?親戚の所に行ったとか隠し子とか。 いない?やったーありがとう!」 ロリと自分に血の繋がりが無い事を確認しガッツポーズ。チンチンは最早金剛石の如し。 次にピポパとバス会社に電話。 「もしもーし、俺就職やめまーす!魔人としての自分の可能性に チャレンジしたくなったんで!それじゃ!」 威勢よく電話を切り、一般社会に別れを告げる近太。 勢い余って携帯電話が砕けたのを見て自分の力に酔いしれる。 「うおおおお、俺はロリコン界の王子ロリー太様だー!」 こうして近太はロリー太になった。 『ジャンプしてバイバイ』 作詞:須藤四葉 作曲:オモロナイトファイブ 私と貴方の関係は バディって呼び方ストライク 子供の頃から一緒だね 東京湾で暮らしたね 貴方はスポーツマンだから 塩分捕球はしっかりね 水泳の時間 並んで泳ぐ 高回転のストローク そろそろサビだよ ヨアケって言わなきゃね ヨアケ ヨアケ ヨアケって言っとけ ヨアケ ヨアケ 何故か票が入る ヨアケ ヨアケ ヨアケって何だろ 10回手を振り ジャンプしてバイバイ 卓球の時間になる度に 貴方はまるで別人ね いつも先に行くばかり そんな貴方に異議ありと たまには私も喧嘩する 戦う女はジャスティスだ 悪魔と契約してもいい 二人一緒になれるなら またサビが来たよ ヨアケって言わなきゃね ヨアケ ヨアケ ヨアケは仕事だ ヨアケ ヨアケ 夜勤の人は寝る ヨアケ ヨアケ 現代人にはありがたみ薄い 10回手を振り ジャンプしてバイバイ 【それから半年後】 「ハッハハー!いくぞ小梅!今日の哀れなターゲーットはあいつだぁー」 「うるさいよお兄ちゃん。暗殺者としてその自己顕示欲はどうかと思うなー」 「11歳児の癖に難しい言葉知ってるな小梅は!だがっ、そこもまたカワイイ」 魔人として真の覚醒をした時の反射的行動でロリを自宅まで連れ込んでしまった ロリー太は一晩過ぎてから大いに後悔したが、拉致されたロリは多少毒舌は吐いても 全く帰りたがる様子を見せなかった。それどころか一緒に暮らそうと言い出したのである。 普通なら警察に行くところである。だが、ロリー太は己のアイデンティティの具現化とも言える このロリを手放す気など全く無かった。ロリが一緒に居たいのなら好きなだけ一緒にいればいい。 そう結論付け共同生活をスタートした。ロリー太の脳は完全にロリコンと化し判断力を失っていた。 安全運転思考なんてあの日にグッバイしている。 そして現在。ロリー太は小梅と名乗る11歳のロリを暗殺業のパートナーとして連れている。 「ターゲット!死ねよやぁああ!!」 愛車ロりー太17号(赤のポルシェ)から降り、いつも通り特に何も考えず バタバタバタとターゲットに詰め寄るロリー太。 「だ、誰だチミは」 「ハッハハー!貴様を倒して俺はさらなる地位と金を手にするのだ! そして小梅から『お兄ちゃんカッコイイ』と言われるのだー!」 「んー、何か分からんがチミうっさい」 ターゲットのアッパーがロリー太の顎に入る。 「フン、過去の俺ならいざしらず、ロリパワーで胸がパチパチする程騒ぎ スパーキンな俺にそんなアッパーが効くろぼごぉー!?」 ロリー太はターゲットの放った普通のアッパーで顎を粉砕骨折しその場に倒れた。 「お兄ちゃんのバカー!何でいつも自分が弱い事を忘れるのよー!」 そう、今のロリー太は弱かった。ロリー太の強化能力は一戦ごとに リセットされるタイプ。どれだけバフ重ねても戦いが終わって寝て起きれば 元の雑魚に戻るのだ。だがロリー太は元々頭が良くなく、僅かばかりの慎重さも 小梅を拾った日に捨てたので戦闘開始時はここまでがテンプレとなってしまっている。 しかしロリー太はここからが強い。小梅がポルシェから降りターゲットに向けて両手をかざす。 「よくもお兄ちゃんを!次は小梅が相手だよ!くらえー、小梅ウインド!」 「だからなんなんだねチミ達は」 ビュオオオオオオ 「うわ!突然風だよチミぃ!でも大した事ないねチミ」 「キャーまた失敗しちゃったー風さんのエッチー」 小梅ウインドファンブル!ターゲットにではなく自分の足元に向かって風を吹かせてしまう。 小梅のクマパンツが周囲に見られるだけに終わる。そしてそれは当然ロリー太の目にも入る。 「チャーラー」 「置きあがったよチミ!」 「ヘッチャラー」 「しかも勃起してるよチミぃ!」 「ローリーが居れば気分はヘノヘノカッパー、ゼーット!」 ターゲットは驚愕した。確かに顎を砕いたのに普通に歌いながら立ち上がる。 しかも外見まで変わっている。金色の逆立てた髪が静電気的スパークをしており 下半身はフルボッキしていた。 「どうだターゲット?これが俺の魔人能力だ。俺はもう貴様の知るロリー太ではない」 「あ、ロリー太っていうのね。初めまして、私は狙割輝夫(ねらわれてるお)ですよチミ」 「ロリー太じゃねえって言ってるだろ!俺は・・・スーパーロリー太だ」 「ど、どこが違うんだねチミ?」 「フン、テメエで考える事だな。最も、これから嫌って程思い知るがな・・・くらえー!」 スーパーロリー太が両手を輝夫に向ける。 「ジャリっ喰う砲ー!」 (ジャリとは小さな子供の呼び方の一種である) ロリのチッパイを優しく包む様な形に構えられた手のひらから青色のエネルギー弾が発射された。 「輝夫アッパー!」 「俺のジャリっ喰う砲をはね返しただと・・・ンギャー!」 ジャリっ喰う砲は輝夫アッパーで撃ち返されスーパーロリー太は自らの技でクロコゲになった。 ロリー太はスーパーロリー太となる事で確かに強くなった。 ランクE最下位からランクDにギリ届くぐらいにまで強くなった。 でもそれでは輝夫を倒すには全然足りなかった。 「お兄ちゃん大丈夫!?生きてる?うわー、風で足が滑ったー!」 駆け寄る小梅が転んでスーパーロリー太に顔面騎乗する。 一度目の復活と同じくスーパーロリー太の股間が起立する。 「ふっしぎなっチンコっのこってるー、ゼーット!」 尻の柔らかさを感じながらスーパーロリー太は再び起き上がった。 いや、今の彼はもうスーパーロリー太ではない。 全身の火傷が完治した後に現れた彼の額にはMの文字が浮かんでいた。 「俺はMロリー太!性格はドM!」 「そうかねチミ。では輝夫アッパー!」 三度目の輝夫アッパーはMロリー太の顎を砕けなかった。 普通にぶっ飛んで倒れただけに留まる。顎はヒビが入っただけで砕けていない。 輝夫はアッパー時の感触から目の前のロリコンが段々強くなっている事を実感した。 「痛ぇよぉ~、ロリ以外からの暴力は嬉しくねぇー!ちくしょー、クソッタレー! おい小梅早く俺を回復しやがれ!間に合わなくなっても知らんぞー!」 「ちょっとー、私がわざと性的に動いているみたいな事言わないでよー! もうお兄ちゃんなんか知らないプンプン!それはそうとして小梅ウインド!」 ビュオオオオオ 「キャー!また失敗しちゃったー!おじさんどいてー」 「ロリが飛んできたよチミ!おほぉ、これは良いロリのモリマンだよチミ~」 小梅ウインドが暴発し小梅は輝夫に対して顔面騎乗してしまう。 普通の女子より一回り大きい怪しげで魅力的な股間が鼻先に押し付けられ 輝夫は興奮し、Mロリー太は輝夫の数倍興奮する。 ドM性癖を解放したMロリー太ならばこういう疑似NTRもアリなのだ。 「う~っミラクル変態ぱわ~、ゼーッ」 「輝夫マジアッパー!」 「ぼぐらちゃぼげげぐばちょぼうらぽにょみ!!!!!」 そろそろ倒さないとマズイと感じた輝夫は、覚悟を決めてマジアッパーを 相手の一番隙だらけな瞬間、回復しながら起き上がるタイミングで撃ち込んだ。 ロリー太第4形態(正式名称不明)の首の骨が折れ視界が反転し暗転する。 (ロリー太よ聞きなさい) 「ん?俺を呼ぶのは誰だ?ターゲットはどうなったんだ?」 意識を失ったロリー太はまず自分の見た目が金髪を逆立てた第一形態に 戻っている事に気付き、その後奇妙な夢を見ている事に気付いた。 (貴方は無色の夢を見ています。ドリームマッチの参戦権を得たという事です) 「いらん。俺は現世で小梅と最強カップルでいる事が夢なんだ。 というか小梅と離れて戦うなぞ出来ん」 (ドリームマッチはキャンセル不可です。でもその小梅とかいうのも 説得して連れてきてもオッケーです) 「マジなのか!という事は・・・おい貴様頼みがある」 ロリー太には夢があった。それは叶わないと思い諦めていた夢。 「小梅がずっと11歳のまま成長しない夢世界とか望んでもオッケー?」 (そういう夢も超オッケーです) 「ハーッハハハ、これでいつまでも小梅はロリのまま、 それは俺が最強不死身の魔人であり続ける事を意味する! ならばいくらでも何年でも修行を重ねいずれはランクBの魔人・・・いやランクAの魔人暗殺すら成功させ伝説のスーパー魔人となる事も夢ではない!!」 ロリー太はグッとガッツポーズをして目を覚ます。 高級マンションのウォーターベッド。ここが自宅であると確認した彼は 水を持ってきた小梅にあの後ターゲットとの戦いはどうなったのかを聞く。 「お兄ちゃんがすっごい覚醒して一撃だったじゃない。覚えてないの? いつものアレ的なアレだよ。それで車を運転して帰ってきたんでしょ?」 「アレか?も、モロチン覚えているとも。ハッハッハー!俺はカッコイイだろう」 「うん、お兄ちゃん素敵だったよ」 あのモブの癖に無駄に強い(推定ランクC)ターゲットを自分が殺した。 そんな記憶は一切ないのだが、過去何度も敵にボコボコにされてたのに 気が付いたら勝利して家で寝てた事があったし、 復活パワーアップの果てに理性を失って暴れてそうなる的モードだと脳内補完した。 「まあ俺がどんな覚醒したのかとかそんなのは割とどうでもいい。 それよりもだな、かくかくしかじか」 「まるまるうまうまね」 ロリー太が小梅に無色の夢とドリームマッチの事を説明すると 小梅は今迄見た事の無い満面の笑みでオッケーと答えた。 「グフフフ、グフフフ、遂にキター!キタんだよ」 「小梅よ、やけに嬉しそうだな」 「え、えっと、だって、そう、お兄ちゃんの強さが異世界にまで響き渡るじゃない! それに、小梅が11歳のままならずっとお兄ちゃんの理想のロリでいられるし!」 「ああ、そういう事か。俺はてっきり高度な変装能力を持った魔人が 俺を利用してドリームマッチに介入しようとしているとか考えちゃったぞ」 「やだなー、そんな訳ないじゃない。無色の夢を見る人はランダムだし 小梅がお兄ちゃんのドリームマッチ参加を知って会うなんて無理でしょ? 小梅がお兄ちゃんと会ったのもお兄ちゃんの理想のロリなのも偶然だよ」 「冗談だハッハハー!さあ今日は早めに寝るぞ」 理想のロリとの触れ合いで何度でも立ち上がる不死身の戦士ロリー太。 彼が夢の世界に降り立つ事で一体どうなってしまうのか!?
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/96.html
第4試合SSその2 秘密院恭四郎の秘められた大いなる始まり 「薫崎香織、感情を揺さぶる調香師か……」 秘密院恭四郎は自らの対戦相手の情報に目を通していた。 そこには薫崎香織の詳細なプロフィールと、彼女が関わったと考えられる事件の類が事細かに記載されている。 「戦場の時間設定にもよるが、学校となると厄介な相手だ」 夜間でない限り、学校には数多くの生徒や教員がいるだろう。 仮にそれらの人間全ての感情を操れるとなれば、不利は必至だ。 「いずれにせよ、対策は必須だな」 恭四郎は必要な装備を整えるべく、部下にメールで指示を出す。 敵の戦術を分析し封じること、それが彼の唯一の戦い方だ。 戦場である学校で目覚めた薫崎香織は、秘密院恭四郎と思しき匂いを感知し、安堵した。 (どうやら、無条件で使えるEFB能力ではないみたいね) 彼女が最も危惧していたのは、試合開始と同時に決着が付いてしまうこと。 もし、秘匿されている秘密院恭四郎の能力が学校全域に甚大な被害をもたらすものだとしたら、手の施しようがない。 だが、最悪のケースは免れたようだ。 おそらく射程がもっと短い、もしくは何らかの条件を満たさなければ使えないといったところだろう。 (それなら、私にも勝ち目がある) 幸い、現在の時刻は夕方。 下校途中の生徒や部活中の生徒、書類仕事をしている教員と手駒にできる人間は十分すぎるほどいる。 「じっくり観察させてね、素敵な実験材料さん」 薫崎香織の掌が妖しげに蠢いた。 グシャッという音を立てて、試合開始からちょうど100人目の被害者が崩れ落ちた。 その姿に感情のない視線を送る加害者の名は、秘密院恭四郎だ。 「しかし、妙だな。いくらなんでも芸が無さ過ぎる」 湧き上がる疑問が独り言となって口に出る。 ここまで喜怒哀楽、さまざまな感情に支配された生徒や教員が彼の前に立ちはだかってきた。 だが、この学校は魔人溢れる希望崎学園にあらず。 いくら理性のリミットが外れているとは言え、一般人相手に遅れをとる秘密院恭四郎ではない。 (順当に考えれば時間稼ぎだろうが……) しかし、それにしても駒の動かし方が散発的すぎる。 「これだけの手駒が使えるなら、もっと俺の体力を削れるだろうに」 確かに生徒や教員はこの戦場にたくさんいる。 しかし、いくらたくさんいると言ってもリソースとしては有限だ。 それを無駄に使い潰しているようにしか見えない薫崎香織の思惑を、恭四郎は掴みかねていた。 (まあいい。最低でもこの学校の人間を殺し尽くせば彼女も姿を現さざるを得ないだろう) 血に濡れた武器を握り締め、秘密院恭四郎は次の場所へと足を踏み出した。 それから数十分の後、薫崎香織と秘密院恭四郎は1階の教室で対峙していた。 「ようやく会えたな」 そう声をかけられた薫崎香織は自らの対戦相手、秘密院恭四郎を改めて観察する。 右手には血塗られた日本刀。 左手は全身を包むコートの中に隠されている。 その不自然な構えは、能力に関する秘密を守るためのものかもしれない。 だが、一番見るものの目を惹くのは顔をすっぽりと覆った濾過式のガスマスクだろう。 造りから見て軍用のA級品に違いない。 (さすがは秘密院の当主様。こちらのことはしっかりと調べてるわけね) もし香織がただの調香師であったなら、勝負は簡単に付いていただろう。 (でもお生憎様。私が生み出す作品はガスマスクじゃ防げない) そう、彼女には魔人能力『パーム・パフューム』がある。 ガスマスクの仕組みをご存知だろうか? 濾材を詰めた吸収缶でガスの成分を吸着することで、吸い込む空気を浄化する。 大抵の匂いであれば、ガスマスクの向こうに届くことはない。 だが、全ての物質を吸着できる吸収缶もまた存在しない。 ガスマスクをした相手と戦うときのため、薫崎香織は吸収缶をくぐり抜ける匂いを開発していた。 手駒をぶつけて得た秘密院恭四郎の情報を加味して調合すれば、望みのままの感情で支配することができるだろう。 能力を発動させる仕草を見せることもなく、恭四郎は少しずつ歩み寄ってくる。 (つまり、まだ能力の射程範囲外なんでしょ!それなら!) 香織は素早く掌を敵に向け、『憤怒』を射出した。 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒怒怒怒なんだこ怒怒怒怒怒怒怒怒敵の能怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒抑え怒怒怒怒怒怒怒怒 いくら冷静さを保とうとしても、すぐに怒りの感情が理性を排除する。 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 ドカッ。グシャッ。ベキッ。 怒怒怒怒待怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒落ち着怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒予怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒りのまま、壁に叩きつけた拳が鈍い音を立てる。 今の秘密院恭四郎は『憤怒』に支配された獣だ。 仕掛けは全てうまくいった。 『憤怒』が生み出す初期衝動は、計算通りに私に逃げ出す隙を与えてくれた。 しばらくすれば、私への怒りに支配された彼はわざとらしく残しておいた痕跡を追ってこの2階の部屋に向かってくるだろう。 だけど、ここに至る階段には機関銃が仕掛けてある。 機関銃の弾丸が当たるよりも速く動くことも考えて、視認しにくいワイヤーも用意した。 普段ならすぐに気付かれてしまうだろうけれど、今の彼なら問題ないはず。 あとは監視カメラで勝利の瞬間を目撃するだけだ。 (そうすれば、夢の世界で好きなだけ理想の作品を追い求められる……!) 戦いの報酬への期待を胸に香織は監視カメラの映像を確認し続ける。 だが、秘密院恭四郎はなかなか現れない。 (落ち着かなきゃ。気持ちが逸りすぎているんだ) 薫崎香織はそう考えていた。 ガシャンッ! 窓ガラスを割って秘密院恭四郎が部屋に入ってくるまでは。 突如2階の部屋に現れた彼の姿に香織は狼狽する。 肉体派の魔人ではない彼女にとって想定外の移動ルート。 強化された魔人が鍛え上げた肉体能力をもってすれば、2階の部屋へ直接侵入することはそれほど難しいことではない。 だが、彼女を真に驚愕させたのはその移動ルートではなく、恭四郎が発した言葉だった。 「ありがとう、薫崎香織さん」 彼の声には憤怒を感じさせない落ち着きがあった。 「あなたのおかげで俺の能力の本当の意味を思い出せた」 ガスマスクから覗く瞳は心なしか笑みを浮かべているようにも見えた。 突発的な破壊衝動が去った後、秘密院恭四郎の心を支配したのは指向性のある怒りだった。 「クソッ!クソッ!あのクソ女がッッッ!」 怒りの対象はもちろん薫崎香織。 だが、その怒りは自分を窮地に追い込んだ彼女への怒りではなかった。 「なぜこれだけの能力を持ちながら、俺を殺せないッ!」 嫉妬と失望。 自分がその能力を持っていたならば、もっと上手くやれていたはずだという怒り。 数多の人間を操ることができるにも関わらず、未だ自分を殺せていないことへの怒り。 もちろん、薫崎香織が慎重策をとったのは恭四郎の能力が不明だったからであり、その怒りは理不尽と言うほかはない。 では、なぜそんな理不尽な怒りを? なぜ? なぜ、俺は? なぜ、俺は、そんなことに怒る? 怒りに支配されているにも関わらず、もう一人の自分がいるように思考が重なっていく。 原始の姿に近い感情のうねりは、秘められてきた記憶のドアを叩く。 そして、思い出す。 秘密院恭四郎にとっての大いなる始まりを。 「そうだ、俺は魔人に憧れてなんかいなかった……」 秘密院恭四郎が魔人と化したきっかけは、今と同じ怒りだった。 魔人への嫉妬と失望だった。 「俺には能力なんてものは『ない』……『必要ない』」 魔人としての能力に目覚めなかったのは、それを望まなかったから。 魔人としての認識が、それを必要としなかったから。 「なぜなら、俺は『能力なんてなくても世界は変えられる』と認識している!」 いかなる感情に心を支配されたとしても、魔人の認識は動かせない。 戦いを好む炎魔人は、悲しみながらも葬送の炎を燃やすだろう。 愛を歌う淫魔人は、怒りながらも性戯に溺れるだろう。 『能力なんてなくても世界は変えられる』という認識だけは、どうなろうと失われない。 無論、その認識を思い出したところで条件は何も変わらない。 相変わらず、秘密院恭四郎に魔人としての能力は存在しない。 しかし、その認識を思い出したことで状況は変わる。 能力がなくても世界を変えられると確信できるなら、誰だって世界を変えるだろう! その瞬間、秘密院恭四郎の思考は加速する。 もし、薫崎香織の『パーム・パフューム』が匂いを介して人を支配する能力であったなら、成す術はなかったはずだ。 だが、心を支配する『憤怒』の感情がただの物質に引き起こされているものなら、対処はできる! 感情も突き詰めれば情報に過ぎない! 故に秘密院恭四郎は支配できる! 己の憤怒を! 拳を叩きつけ、怒りを発散! 伝わる痛みをもって、刹那の平静を取り戻す! その間に繰り返される那由他の思考と試行! 膨大な怒りを嚙み砕き、味わい、飲み込む! 抑えつけるのではなく、変換する! 怒りの矛先は、薫崎香織! 怒りを解消する手段は、彼女の殺害! 殺せ!殺せ!殺せ! 血統に染み付いた秘密院家の情報処理術を用いて、怒りを殺意に変えていく。 その姿はまるで残酷無慈悲な殺人チューリングマシンだ。 かの計算機科学の天才、ジョン・フォン・ノイマンもこれほどの殺戮機械の誕生は予見しなかっただろう。 尽きることのない殺意を胸に、恭四郎は静かに歩き出した。 (この短時間で『憤怒』を無効化した?!それともさっきのは演技だったとでも言うの?!) 薫崎香織は、想定とはまるで違う秘密院恭四郎の姿に混乱した。 それでもいくつもの修羅場を潜り抜けてきた彼女は、すぐに次の手を打つ。 護身用の拳銃を胸元から取り出し、構える。 銃の扱いは得意ではないが、愚直に前進してくる相手に当てるだけなら容易い。 「死ねッ!死ねッ!死ねッ!」 何度も何度もトリガーを引く。 だが、秘密院恭四郎はその弾丸の全てを身体で受け止めた。 コートの下に隠した防弾スーツ。 それが彼の持ち込んだ対策だった。 薫崎香織が関わったとされる事件の被害者の死因は同士討ちか射殺のみ。 己の鍛錬に対する自負から単純な殴り合いで敗北する可能性は低いと考えた彼は、銃弾への防護策を優先していた。 眼前に迫る秘密院恭四郎。 薫崎香織はとっさに腕を上げて頭部をかばう。 だが、恭四郎の愛用する日本刀の形をした鉄の塊は腕ごと彼女の頭蓋を打ち砕いた。 走馬灯のようにゴドーとの思い出が浮かぶ、そんな時間すらないほどの即死だった。 「やはり、たいていの魔人は全力でぶん殴れば死ぬ」 殺意を解放するように彼女を殴った後、秘密院恭四郎は自分の認識を確かめるようにそう呟いた。 俺は夢を見るのが嫌いだ。 ただ一夜で消える仮初の世界に深い眠りを妨げられたくはない。 俺は夢を見るのが嫌いだ。 実現する可能性のない空想をいくら語ったところで世界は変わらない。 だから、俺はもう『夢を見ない』だろう。 好きな夢を見れる力など、必要ない。 彼女が思い出させてくれた認識だけで十分だ。 さあ、現実を始めよう。 (完)